アンの故郷
(2000年9月15日)
ついにボーダーと会う |
朝出かける支度をしていたら、外で「ワン,ワン」と犬の声。窓の外を見ると、4頭のボーダーコリーが納屋の前に勢ぞろい。TABIパパとTABIを連れて大急ぎで外に出る。
一番体が大きく、アルファ犬のJESSIE、その次にランクするPORSCHE、JASMINE、そして昨夜TABIパパが見たKNIGHT。みな成犬だが、JESSIEのほかはTABIより小さく、きゃしゃだ。TABIはラブの血が入っているせいか、がっちりしている。
JESSIEがテニスボールをくわえてきて、
「よお、遊んでくれよ」
とTABIパパの前に落とす。パパが思いきり遠くへ投げる。5頭の犬が追う!TABIが真っ先にくわえて持ってくる。が、他の犬に吠えられ、耳をたらしてボールを離すTABI。
どうも、リーダーのJESSIEが何でもリードするらしい。ボールをくわえて持ってくるのも彼、あとの犬は補佐の役目。一人っ子で育って、そういった掟を知らないTABIは、ボールが飛ぶたびに我先に走って行って、他の犬に怒られている。学習しろよ、TABI!
ボールをくわえて逃げるTABIを、KNIGHTが追い、歯をむき出して吠えかかる。
KNIGHT「お前、よそ者のくせになまいきだぞ!」
そこへPORSCHEが割って入り、KNIGHTに向かって吠えかかる。
PORSCHE「ちょいとお待ちよ、このボーヤをいたぶるのは私の役目なんだよ。お前はひっこんでな!」
KNIGHTは、耳をたらしてスゴスゴと引き下がる。PORSCHEは、あらためてTABIに向き直り、歯をむき出しガチガチ音をさせ、うなり声をあげておどしにかかる。
PORSCHE「あんた、ボールを独り占めするのは10年早いんだよ。よこしな!」
TABIは、耳をたらしてボールを地面に落とす。
TABI「なんだい、なんだい、みんなのいじわる」
そこへJESSIEが余裕で走ってきて、ボールをくわえてTABIパパのもとへもどる。
おもしろい。自然に近い犬の群れとは、こういうものなのか。
犬には、
「ご主人さまの大事なお客様の飼い犬だから、親切にしなきゃ」
などという気遣いはないらしい。犬は犬同士、自然のルールに従って行動する。さっぱりしていて気持ちいい。TABIにはいい勉強の機会だ。どんどん鍛えてもらってこい。
しばらく遊ぶと、TABIにもようやく自分の位置(ランク最下位)がわかったらしく、補佐犬の後ろについて走るようになった。
一汗かいたところで、TABIパパがTABIの水皿に水をくみ、犬たちに飲ませる。JESSIEから順番に、ランク順に水を飲む犬たち。
「それぼくの皿なのに〜」
という目つきのTABI。
アボンリー・ビレッジ |
キャベンディッシュにあるこの施設は、"Village of Ann of Green Gables" というサブタイトルがついているとおり、「赤毛のアン」に出てくる村を再現したものだ。
ここのウェブサイトからプリントした道順によれば、ルート6上にあってレインボーバレーの向かいに位置する。ブラックレービーチを出て、ルート6をひた走る。さすがに観光の目玉だけあって、サインがわかりやすく出ており、迷うことなく到着。
敷地全体が一つの村を形成しており、教会・学校・商店が立ち並ぶ。牧場には本物の家畜が飼われている。「赤毛のアン」当時の装束を来たスタッフがそこここにいて、観光客を迎えてくれる。新しい建材を使って建てられたものもあるが、ゲストハウスや教会などは、100年以上前の建物を運び込んでここで建てなおしたものだ。当時をしのぶ調度品が見もの。ここの教会では、今年の夏、日本人カップルが結婚式を挙げたそうだ。
TVシリーズ "Road to Avonlea" のロケも、ここで行われたことがあったそうだ。敷地内では,新たなアトラクションを建設する準備が始まっていた。今後もどんどん増えるそうだ。
シーズン中(6月末〜9月初旬)は、毎日何らかのイベントを開催しているらしい。私たちが行ったときはシーズンオフだったので、人も少なく静かだった。そのかわり入場料も半額だ。リードにつないだ犬なら入場可。TABIは、どこでもスタッフや観光客にかわいがってもらい、馬車にものせてもらった。TABIママは特別に馬車の先頭にのせてもらって、たづなもとらせてもらった。
納屋の中では、先週産まれたばかりという子猫が母猫のお乳を飲んでいた。そのむこうでは、子牛が敷きワラの中でスヤスヤと眠っている。100年前も今も、こうした平和な光景は変わらないのだ。
ボトリングの店では、"Cardial" という清涼飲料水が昔ながらの機械で瓶詰めされ、売られていた。私はアンのファンでないので知らなかったが、この飲み物は小説の中に出てきて有名なのだそうだ。甘めのラズベリーサイダーといった味。
こんなに見ごたえのあるところとは想像していなかったので、予定表では滞在時間を1時間にしていた。次回はもっとゆっくり、一日かけて見学したい。(意外なことに、入る前は「こんな女子供のもの・・・」とか言っていたTABIパパが、結構気に入っていた)
Avonlea Village
クリアスプリング |
キャベンディッシュを出るころにはすでに昼近かった。朝はB&Bでコーヒーとマフィンを食べただけ。ビレッジで買ったクッキーをつまんで飢えをしのぐ。
お昼は、クリアスプリングにある、カルーセルティールームでとる予定だった。ここはその名のとおり、回転木馬風の建物になっており、オーガニック材料を使ったメニューがあるという。キャベンディッシュからルート6を通り,ベッドフォードでルート2に入る。ひたすら東に向かって走り、セントピータースでルート16へ。そこからは海岸沿いにまっすぐクリアスプリングまで。ガイドブックでティールームの住所を見ると、ただ Rte.16 Clear Spring とだけ。田舎にはありがちだが、番地も何もないのだ。目を皿のようにしてハイウェイ沿いのサインを探す。
だが、見つからない。同じ道を行ったり来たり。ついにTABIパパが
「おい、あれじゃないか」
と、森の中を指す。車を降りて森の中へ入ると、確かに木々に囲まれて回転木馬の建物が見えた。だが、中は暗く、しかも入り口にはロープがはってあり入れない。シーズンオフなのか?でもガイドブックには9月中はオープンとある。お客が来なくて廃業してしまったのか?とにかく、お昼をここで食べるのは無理だ。車に戻り、イーストポイントにある灯台を目指すことにする。
キャンベルズコーブ |
ママ・パパそれぞれ Cardial を一瓶ずつ飲んだのが効いてきて、トイレに行きたくなった。ルート16は行けども行けども右手が森、左手が海だ。地図を見ると、キャンベルズコーブに州立公園がある。ここにはトイレがあるにちがいない。
州立公園は、ルート16から海岸へ向かって入ったところにあった。美しい海岸をのぞむキャンプ場。シーズンオフの今でも、キャンピングカーが停まり、みなテーブルを出してバーベキューをしている。トイレを探して公園内に点在する建物を見てまわる。が、どこもカギががっちりかかっている。オフには管理人もいないらしい。
「おれ、あっちで用を足してくる」
と、TABIパパはそう言い残して森の中へと消えた。こういう時、男は便利だ。TABIはもちろん、そこここでサッサと用事を済まして、キャンプ中の人々の中へ遊びにいっては、かわいがってもらってご馳走にまでなっている。犬も便利だ。
「トイレと食事」
これがTABIママの最大目標になった。
イーストポイント |
ハイウェイは、ほとんどといっていいほど車が通っていない。ルート16をガンガン飛ばしてPEI最東端、イーストポイントへ。"light house" のサインで小道に折れ、つきあたりが岬だ。
ノースケープと違って、灯台のもとに小さなみやげ物屋があるだけでガランとしている。とにかく中に入り、レジのやさしそうな老婦人にトイレの場所を聞く。
「ここを出ると、ずーっとむこうに小さな小屋があるでしょ。あれよ」
振動を与えないように歩くには長い道のりだ。でもがんばる。
スッキリしたところで、ノースケープでもらったリボンを出し、"Traveler's Award" をもらう。
またも老婦人に、
「このへんでお昼食べるところあります?」
と聞いてみる。
「そうねえ、ベイスンヘッドまで行けば、シーフードのテイクアウトがあるわよ」
ここから車で15分くらいだ。急ごう。
ベイスンヘッド |
イーストポイントを出て、ルート16にもどり、今度は西へ下る。
ベイスンヘッドは、美しい砂浜の海岸で知られる。この砂は、"Singing sand" と呼ばれるそうだが、日本でいう泣き砂なのか?とりあえず何か食べてから見に行くことに。
全く観光客も見当たらず、ひまそうにしているテイクアウトのカウンターでメニューを見せてもらう。
「あ、おれ現金持ってないんだ。ガソリンスタンドで使いきっちゃった」
とパパ。
「ここはカードは使えないのよ」
とカウンターの女性。そりゃそうだろう、こんな小さな町の店だもの。あ〜せっかくここまで来たのに!とぼとぼと駐車場へ。私たちの暗い気分を反映してか、空模様までがあやしくなってきた。
スーリー |
もうファストフードでもなんでも良かったのだが、ルート16にはな〜んにもない。マグデレン島へのフェリーが出る港町、スーリーに寄ってみる。
まるでアメリカのロードムービーに出てくるみたいな田舎町だ。3分もあれば走りぬけられるメインストリートに銀行とコンビニつきガソリンスタンドがあるだけ。とりあえず銀行でお金をおろす。
「ブルーフィンレストラン」という店を見つけた。駐車場には、地元のお巡りさんの車やトラックが停まっている。サービスが早く、一人分の量が多く、安いにちがいない。TABIパパはフィッシュアンドチップス定食、ママはシーフードバーガー定食を注文。ママの勘は当たる。量が多い・早い・安い(チップ入れて二人分$20)と三拍子そろっている。午後4時にお昼だ。
食べながら変更計画を練る。このあとの目的地のうち2つはとても間に合わない。今日中に行けるところ、リトルサンズのワイナリーを目指すことにする。
ロシニョールワイナリー |
(店の中は駄目)
ワイナリーは5時に閉店。それまでに着くため、ショートカットをとることにした。ルート16はスーリーの先でルート2に接続する。ディンウェルズミルズでルート4にのりかえ、まっすぐ。海岸沿いを走るルート18にぶつかったら右に折れると、海沿いに走るのがまたルート4になる。そこからリトルサンズまでまっすぐ。
左手の海に、PEIとノバスコシアを結ぶフェリーが見えた。ワイナリーはフェリーのターミナルから東に9q。もうすぐだ。時刻は4時55分。ワイナリーは5時閉店だ。
ワイナリーの旗が立っている。オープンしている!急いで店内へ。数人の観光客が、ワインのたくさん入った袋をかかえて帰るところだった。
「まだ試飲できます?」
とたずねると、ブロンド美人(化粧きつめ)が
「どうぞどうぞ。1オンス1ドルです」(1オンスは大体おちょこ一杯)
タダじゃないのか、試飲は。(このお金は、何かの寄付に使われるとかであった)
赤・白のテーブルワインのほかにも、リンゴやブルーベリーなど全部で14種のワインが並ぶ。とりあえず"Seasons' Greeting" とタイトルのついたクランベリーのワインを試飲してみる。クリスマスの絵のラベルといい、あざやかな赤といい、まさにホリデーシーズンにぴったりのワインだ。クランベリーの渋みは全くなく、ドライすぎもせず、口当たりよし。これを一瓶買って、クリスマスにあけることにする。
店の外へ出ると、旗は外されていた。本当に時間すれすれだったのだ。
落ち着いてあらためて眺めると、ワイナリーの足元には息をのむほど美しいノーサンバーランド海峡が広がっている。この潮風をうけて育ったブドウが、ロシニョールのワインになるのだ。
ワイナリーの敷地内の畑で、整然と植えられたブドウが見られる。ここなら冬の気温も相当低くなるから、アイスワインも作れるのではないか。1995年から販売を始めた若いワイナリーだが、これからが楽しみだ。
ブドウ畑のとなりの牧場では、羊が群れをなしていた。TABIをお散歩させつつ、羊と対面させる。リーダー羊が、塀の近くまで様子を見に来た。TABIは、生まれて初めて見る羊に、目を見開いてハッと後ろへ飛び、肢をふんばって緊張している。リードをひっぱっても、動かない。
「おい、お前のおとっつあんは牧羊犬だろ。こわがってどうする」
とパパ。TABIはまばたきもせず、ふんばったまま。
そのうちリーダー羊が「べえ」とないて、群れを連れて向こうへ行ってしまった。やっとTABIは塀に飛びついて、鼻を塀につっこんで夢中でにおいをかいでいる。
Rossignol Estate Winery
Rte.4 Little Sands
962-4193
open: 10:00-17:00
水がない! |
ワインを買ってホッとしたら、ナンだかのどが乾いているのに気づく。TABI用に持ち歩いている水筒に冷たい井戸水が入っているはず、と思って探すが、ない。
B&Bに忘れてきた?ということは、今日は宿を出てからTABIに全然水をやっていない?!ガソリンスタンドを見つけて、水をもらおう。
ロシニョールを出るころ降り始めた雨が、土砂降り状態に。トランスカナダハイウェイを海岸沿いに走るが、おそろしく何もないところだ。
やっと、サウスピットで小さなスタンドを見つける。雨のなかTABIを外に出すと、店の外に置かれたフリーザーの上にたまった雨水を夢中ですすっている。許せ、TABI。
パパがTABIの水皿に水をたっぷりもらってきた。車のなかで十分に飲ませる。
シャーロットタウン |
トランスカナダハイウェイを海岸沿いに走り,ヒルズボロー橋を渡ると、そこはPEIの州都、シャーロットタウン。
目標は、コンフェデレーションコートモール。PEI観光局から送ってきたガイドブックを持っていくと、果物のプレザーブをもらえるからだ。モールは、ケント・クイーン・グラフトン・ユニバーシティそれぞれの通りに囲まれたなかにあるらしい。が、車でぐるぐる回ってみても、ショッピングモールらしきものが見あたらない。モールというと、だいたい何十・何百の店が一つの建物内に集合したもので、大きな駐車場が付属しているのが普通だ。もともと小さいシャーロットタウンに、そんなものがあるのか?
道行く人にたずねてみる。
「あれがそうよ」
指差す先は、さっきも車で通ったところ。どうやらこのモールは、もともと普通の商店の並びだったものを、店の奥でつなげてモールと呼んでいるだけらしい。
「こんなものモールじゃない。こんなシケたモールもどきに入るために駐車料金なんて払わないぞ」
と、TABIパパは激怒。
「しかたないでしょう。だいたい、こんな小さい町に大きいモールを期待して来るほうがどうかしてんのよ。さっさとプレザーブをもらって帰ろうよ」
とTABIママ。通りに車を停めたまま、車内で大喧嘩が始まってしまった。
ものわかれのまま、B&Bへもどることになった。ふと後ろを見ると、TABIがいない。トランクの中に逃げ込んで、小さくなってこちらをうかがっていた。今日はTABIにとって、水は飲ませてもらえない、夫婦喧嘩の巻き添いをくう、で、受難の日だ。
Confederation Court Mall
B&Bで一休み |
B&Bの部屋で、TABIにたっぷりとエサと水をあげる。好物のモッツアレーラチーズもたっぷりかけてあげる。
TABIを散歩に出す。納屋の前にKNIGHTがいて、ついてくる。彼は、群れからはなれて一人のことが多い。50mくらいはなれて、茂みの向こうを歩いている。おいで、と言っても来ない。茂みのなかから、尻尾の白い先がちらちらしている。
パパ・ママとりあえず和解し、夕食をとりに出ることに。シャーロットタウンにある、キムズ・ビストロ。新鮮なオーガニック野菜と地元のシーフードメニューが人気の店。予約のために電話してみる。
「今シーズンの営業は終了しました」
の録音テープ。ナンだって?!ガイドブックには、「オープン6月〜9月」と出ていたのに??!またもガイドブックにだまされた。
宿においてあるパンフを物色。シャーロットタウンのホテルで、シーフード食べ放題ビュフェがある。電話で確認し、お昼寝中のTABIを起こして車でダッシュ。
シーフードビュフェ |
シャーロットタウンのケントストリートに面した大きなホテル。ロビーを入ってすぐのレストランに飛びこむ。団体客が何組も。メニューを見ると、日本語訳がついている。日本人観光客が多いのだろう。
二人ともシーフード食べ放題(前菜からデザート、コーヒーまでついて$24.99)を注文。今日のシーフードは、ムラサキ貝。メインはパスタを注文。味はまあまあ。ウェイトレスに、明日行く予定のファーマーズマーケットの道順を聞いて、会話がはずむ。彼女の姉は、札幌で英語を教えているそうだ。日本の話でしばし盛り上がる。
外に出ると、雨足が激しくなってきた。明日の天気によっては予定を変更しなければならない。パッキングは今夜のうちにやっておこう 。
(2000年12月6日)
Copyright 2000 to Infinity, superpuppy.ca