APBT(アメリカン・ピットブル・テリア)

sabrina
手前がSABRINA、♀ 2歳 去勢済み

paw1.gif (869 bytes)ご近所の筋肉少女

近所に住むSABRINAとTABIは、大の仲良し。黒白のマーキングも似ていて、まるで双子の兄妹みたいだ。飼い主の自転車に伴走する彼女がうちの前を通ると、TABIは大喜びで飛んでいく。そして、うちのフロントヤードで飽きずに追いかけっこをして遊ぶ。

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追いかけっこ大好き

子犬のころはちょっと人見知りする彼女だったが、いまではとてもフレンドリー。APBTらしくひきしまったボディと、光沢のあるコートがとても美しい。かなりの運動量を必要とする犬種のため、飼い主は毎日自転車引きをしたり、近くの小学校の校庭へ連れて行って運動させたりいろいろ努力している。

sabrina_tabi
「あのねえ…」「ふんふん…」
ひそひそ話

「アジリティにも興味あるんだけどね、仕事が忙しくてなかなか」
と、飼い主。確かに彼女なら、頭が良いし足が速いし、アジリティをやらせたらいいとこまで行きそうな気配だ。

sabrina_tabi
「あ〜TABI、こんなとこに隠れてた!」

体重はTABIよりやや重いくらいだが、体を触るとまさに筋肉のかたまり。完全な体育会系だ。飼い主も、フットボールのオフェンスにぴったりというかんじのタフガイ。だいたいこれくらいでなきゃ、APBTと楽しく暮らすのは無理だろう。

paw1.gif (869 bytes)みんな大好き、Pete the Pup

北米で最も有名なAPBTといえば、誰もが名を挙げるのが"Pete the Pup"だ。

1930年代に人気を博した"Lil Rascals" に登場した犬で、いたずら小僧たちの良き相棒として人々に愛された。当時の子供たちはみな、あんな犬が欲しいと願い、APBTの子供に対するフレンドリーさと忍耐強さもよく受け入れられて、ペットとして飼う家庭が多かったという。今でも、シェルターに収容されたピット系の犬は仮の名前として"Petey"とか"Pete the Pup"と呼ばれることがあり、個人的にもそんな犬を見かけたことがある。

ところで、誤解している人が多いが「ピットブル」というのは犬種の名ではない。アムスタッフ(アメリカン・スタフォードシャー・テリア)、APBT(アメリカン・ピットブル・テリア)、スタッフィ(スタフォードシャー・テリア)、およびこれらの雑種犬をひっくるめた俗称である。

これら「ピットブル」の先祖は、18世紀後半のイギリスで盛んだった牛攻め(犬をけしかけて雄牛をいじめる見世物)に使われたマスチフ系の犬だ。牛攻めが違法とされてからは、今度は闘犬に使われ盛んに繁殖された。こうした歴史から、彼らは非常に頑強で痛みに強く、驚くべきスタミナを有しているといわれる。

19世紀半ばに北米に輸入され、アメリカ独特の「大きいことはいいことだ」の風潮にのって大柄な犬が好んでつくられ、本国イギリスの小柄なスタッフィとは異なるスタンダードを持つようになる。この時点ではいろんなタイプのピットが存在し、また呼称もいろいろだったらしいが、次第にアムスタッフ系とAPBT系に別れていく。

その経緯に関しては、専門家によっていろいろ言うことが違っていて真偽のほどはわからない。が、要するにアムスタッフ系はショータイプのルックス重視、闘犬としての性能に重きを置かない犬、むしろ攻撃性を消す方向で繁殖してきたらしい。それに対してAPBT系は、ルックスはバラつきがある (コートの色やマーキングは何でもOK)が闘犬として充分使える、ワーキング能力を重視したブリーディング・プログラムを実施しているという。もちろん現在では闘犬は違法なので、良質な繁殖をされたAPBTが実際に アンダーグランドのピット・ファイティングに出ることはない(はず…)。

いまでは異なる二つの犬種とされているが、シロウトの目には両者の違いがあまりハッキリしない。獣医でさえ二つを混同している人がいる。アムスタッフの方がやや頭部が大きく体もどすこい体型、APBTはやや背がすらりとして敏捷、とも言えるがそうでないのもいる。だが、アムスタッフはAKCでもCKCでも登録犬種だが、APBTは認められておらず、UKCかADBAしか登録できない。

だからAPBTを飼っている人の中には、UKCにAPBTとして登録し、さらにAKCには同じ犬をアムスタッフとして登録してショーに出しているケースがある。そんないいかげんでいいのかと首を傾げたくなるが、ケネルクラブってどこもそんなものらしい。

paw1.gif (869 bytes)Give a Dog a Bad Name

キング・オブ・殺傷事件としてメディアによく登場する「ピットブル」だが、記事を書いている本人たちが本当にわかって書いているかというとそうでもなく、ピットと報道されておきながら実際には全く違う犬種だった、なんてこともある。ただ「ピットブル」と記した方がニュースとしてウケがいいのは事実だ。ジャーナリズムなんてそんなもんだ。

だが実際に、「ピットブル」を飼うことを禁止している地域(詳しくはこちらへ)があるし、家屋保険を掛ける際にはどんな犬を飼っているか調査があり、ピット系だと加入を断られるケースがある。「ピットブル」は、ジャーマンシェパードやロットワイラー、ドーベルマンと並んで「危険犬種」のトップテンの栄誉に輝いているからだ。

そんなに「ピットブル」は怖いのか?

APBTに限っていえば、彼らはワーキング能力を重視した繁殖をされているが、良心的なブリーダーに注意深く繁殖されたAPBTは人間に対する攻撃性というのはないという。 闘犬として飼われていた時代でも、人間に攻撃性を見せた犬はその場で銃殺だった。確かにいろんなAPBTに会ったが、しっかりした飼い主に飼われている子はみなフレンドリーで、小さな子供たちともうまく遊んでいた。これはもちろん、良質なブリーディングで授かった子犬をきちんと躾を入れながら育て、注意深く社会化した賜物といえるだろう。

意外なことに、そうしたフレンドリーさが災い(?)して、彼らは強面にもかかわらず番犬として役立たないといわれる。あんなに体育会系なのに、シュッツフンドで活躍するAPBTは少ない。むしろ、ウェイト・プルなどの力競技に強さを発揮している。

それに対して殺傷事件を起こすような犬というのは、素人のバックヤード・ブリーダーにいいかげんに繁殖された犬で、飼い主も麻薬密売人だったりしてもともとアタック・ドッグ(人間を攻撃し殺傷する犬)として育てていたケースや、闇のピット・ファイティングに使われた犬が多い。そこまでいかなくても、「なんかピットってかっこいいじゃん」てなノリでたいした考えもなく子犬を買い、躾や社会化をせずにほったらかしておいたため大型凶器に育ってしまったケースだ。

これはAPBTに限らず、どんな犬にでもいえることだ。注意深い繁殖と、躾の努力は、どんな犬にも必要だろう。

しかし、よその犬や猫などの小動物に対する攻撃性は、闘犬としての血筋からいって否定できず、これは良心的なブリーダーも認めている。よその犬と仲良くできる子もいれば、そうでない子もいるのだ。だから、自分の犬をドッグパークに連れていってよその犬と遊ばせたい、と希望しているならば、飼う前によく考えるべきだろう。

paw1.gif (869 bytes)憧れのAPBT

良質な繁殖をされた若く美しいAPBTを見た者なら誰でも、「あんな犬を飼ってみたい」と思うだろう。とくに男ってのは、自分をマッチョに見せたいがためにマッチョな犬を選ぶ傾向にある。

しかし先に述べたように、一般の印象というのは「危険な犬」であり、良心的なブリーダーや飼い主がどんなに努力しても、なかなか世にはびこる誤解は完全に解けない。APBTを飼う人は、犬の一生の間そうした世間の偏見に向き合っていく覚悟がいる。ウェスティが「ガウガウ!」と吠えても「まあ、気の強い子」ですむが、同じことをAPBTがやったら人々のリアクションは大きく違う。

なにより家屋保険に加入できないというのは、北米に住む者にとってマイナスだ。まず、住宅ローンが組めない。さらに、訴訟社会であるからして、いざというときに大変な金銭的負担がかかる可能性がある。Liability というのは、なにも犬がらみの事件でなくても、例えば自分の敷地内でよその子供が転んで怪我をし、その親から家主の管理責任の欠如として訴えられることなども含まれる。保険があればそれでまかなえるが、ない場合は自費で裁判費用や損害賠償など払わなければならない。

また飼い主のスタミナも重要なポイントだ。なにしろ頑健な犬だから、飼うほうも体力的にも精神的にもタフでなければならない。飼い主には忠実な犬と言われるが、それは飼い主がきちんとしたリーダーシップをとっている場合であり、「やさしい人」は犬に完全になめられている。明らかなミスマッチであり、犬にとっても人間にとっても悲劇だ。

そしてブリーダーやトレーナーが口を酸っぱくして言うのは、「子犬のうちから充分な社会化をしろ」だ。これはどんな犬種にも言えることだが、APBTの歴史からいって、普通のペットとして飼うならば社会化訓練は絶対に必要だ。そのための努力とエネルギーは、惜しんではならない。躾の行き届いたフレンドリーな成犬を遊び相手に選び、様子を観察する。APBTの特徴として遊びが本気のファイトになることがままあるので、その時にはすかさず子犬をすくいあげて厳しく、厳し〜く叱る。「ルールを守らなきゃ遊べない」ことを教えるためだ。

そこまで丹念に努力してフレンドリーな犬に育て上げても、成犬となったAPBTがある日突然、本当に何の前触れもなくそれまで仲良かった犬(一緒に暮らしていた犬を含む)を襲い、 殺傷することがある (実話。2004年11月15日追記)。これは彼らの性分としか言えず、誰にも予測ができない。飼い主は、そういう可能性があることを肝に銘じ、いざという時のために心の準備(と、お金の準備)をしておかなければならない。

タフな体と精神力、そして莫大な銀行残高。これら全てを兼ね備えた人に許される犬、APBT。うちなんか、とても無理(爆)。お友達の犬をながめて鑑賞するだけで、満足するとしよう。

(2004年7月10日)

ピットについて、これほど端的に明快に語ったものはないと言われるThe Pit Bull Flash。犬好きなら泣けてしまうこと間違いなし。(2004年10月19日追記)

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