赤いケシの花畑

poppies

paw5.gif (126 bytes) 胸の赤いケシの花は

11月に入ると、カナダでは胸に赤いケシの花のピンをつけた人をよく見かけるようになる。
街中では傷痍軍人募金のブースが立ち、募金をするとこのピンがもらえるからだ。

11月11日は Remembrance Day の休日。
第一次世界大戦が1918年のこの日に終結したのを記念し、アメリカやイギリス、そして英連邦のカナダやオーストラリアでもこの終戦記念の休日が制定されている。(アメリカでは、この日は Veterans' Day と呼ばれる)

この休日には、各国で戦死者を慰霊する行事がいとなまれる。
第一次世界大戦だけでなく、第二次世界大戦・朝鮮戦争・ベトナム戦争・湾岸戦争を含む全ての近・現代戦で犠牲となった兵士たちに黙祷を捧げる。

カナダの他イギリスでも、人々は赤いケシの花のピンをつけて慰霊祭にのぞむ。
(著者注:当初この記事を掲載したとき、ケシの花をつけるのはカナダだけ、と記述した。後日、オールアバウトジャパン「カナダで暮らす」の担当ガイドの石川さんから「イギリスでも同様なのではないか」とご指摘いただき、調べたところ確かにイギリス人もケシの花をつけることがわかった。ここに訂正し、貴重なご指摘をくださった石川さんに感謝します)

この花のいわれは、何であろうか?

paw5.gif (126 bytes) フランダースの草原に眠る兵士たち

1915年5月、カナダがドイツに宣戦布告した翌年のこと。
軍医として戦地に赴いたカナダ陸軍少佐ジョン・マックレイは、来る日も来る日も負傷した兵士たちの手当てに追われていた。
カナダ人兵士だけではない。イギリス人、インド人、フランス人、そしてドイツ人。皆、若い命を散らしていく。医師として訓練された彼にも、その惨状はあまりにもむごく映った。

そんなある日、彼の教え子でもあったヘルマー少尉が、戦場で爆死を遂げた。マックレイにとってこれは大きな痛手であり、悲しみであった。

翌日、マックレイはヘルマーを埋葬した場所のそばに広がる赤いケシの花畑を眺めながら、その心境を一遍の詩に綴った。のちに同僚将校の手によりその詩がイギリスの新聞社に送られ、1915年12月に Punch 紙に掲載された。
これが大いに反響を呼び、この詩は戦争の悲惨さと平和への祈りを象徴するものとして各国へ広まった。

マックレイはその後、1918年にフランスで戦病死する。45歳であった。
彼の詩 In Flanders Fields は、カナダの新10ドル札に印刷されており、今でもカナダを始め各国で Remembrance Day に読まれている。

詩に読まれたフランダース草原の赤いケシの花。
これは1918年にモイラ・マイケルがマックレイの詩に答える形で書いた詩、"We shall keep the faith" に再び登場する。ここで彼女は、
「戦没者に敬意を表し、赤いケシの花を身につける」
ことを誓う。
これがきっかけで人々は Remembrance Day にケシの花を胸につけるようになり、それは平和を願う心の象徴となったのである。

paw5.gif (126 bytes) なぜ赤いケシの花か?

このフランダースの草原に満開となった赤いケシの花は、一重咲きの野生種で一年草である。この花の種は、地に落ちると何年でもそのままじっと生き長らえるという。そして、何らかの要因で地面が掘り返されると、ようやく芽を出す。

戦場となった草原は、兵士たちによって隅々まで踏み荒らされ、掘り返された。そこで、それまで草原に落ちたケシの花の種は、一斉に長い眠りから覚め、芽を出し花を咲かせた。

その光景は、誰もかつて見たことがないような一面の赤い海であったという。
それはまさに、戦いで傷つき命を失った兵士たちの血の色でもある。

私たちは、もう二度とケシ畑を満開の赤い色で染めてはならない。若い命を散らしてはならない。
その祈りと願いをこめ、人々は胸に赤いケシの花をつけるのである。

In Flanders Fields

In Flanders fields the poppies blow
Between the crosses, row on row,
That mark our place; and in the sky
The larks, still bravely singing, fly
Scarce heard amid the guns below.

We are the Dead. Short days ago
We lived, felt dawn, saw sunset glow,
Loved, and were loved, and now we lie
In Flanders fields.

Take up our quarrel with the foe:
To you from failing hands we throw
The torch; be yours to hold it high.
If ye break faith with us who die
We shall not sleep, though poppies grow
In Flanders fields.

私はカナダに来るまでこの詩は知らなかったが、初めて読んだときはとても強烈な印象をおぼえた。

まず、真っ赤なケシが一面、という情景がビジュアル的に鮮烈だし、ヨーロッパ戦線での戦死者のことをうたってるけども、これを旧日本軍の戦死者におきかえても通じる普遍性があると思う。
派手に戦争反対を叫ぶのではなく、静かに、しかも確実に読むものの心に訴えてくる詩だ。

参考:
The making of the poem
The Story of John McCrae
CONTACT November 1992
Remembrance Day ("We shall keep the faith"の全文はここで)

(2001年11月11日)

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