犬ぞり体験ツアー

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以前から一度はやってみたかった犬ぞり。
この冬、ついに体験することができた。以下は、新米マッシャーTABIママの犬ぞり体験レポートだ。

  1. Teagues Lake Dogsledding
  2. ツアーの種類
  3. 犬ぞりファッション
  4. 犬ぞり講習
  5. いよいよ出発!
  6. ランチ
  7. 雪の幻想
paw4.gif (869 bytes)Teagues Lake Dogsledding

Bob と Ann 夫婦が経営するこのファームには、現在43頭の訓練済み犬ぞり犬(シベリアン・ハスキー、アラスカン・マラミュート、アラスカン・ハスキー、カナディアン・イヌイット・ドッグ)と、レスキューされて回復中の犬ぞり犬が数頭いる。夫婦は犬ぞり犬の公認ブリーダーであり、また犬ぞり犬のレスキュー活動や訓練講師もしている。Ann は、犬のグルーマーの仕事もしている。

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Bob, NANOOK, Ann

Bob は、レスキュー犬を含む犬ぞり犬たちにそりを引く機会を与え、また一般の人々にスポーツとしての犬ぞりの楽しさを知ってもらうためにこの広大な土地を手に入れ、ファームを開いた。

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「あっしが犬頭のNANOOKでがす」

マラミュートのNANOOK(先住民語で北極熊)は、いわばここの犬頭。名前のとおりデカイが、気はやさしくて世話好きな彼はもうそりは引かないが、このファームの犬たちのまとめ役だ。リーダー犬連中も、彼の言うことを聞く。彼だけはノーリードで自由に闊歩している。車から降りたTABIを真っ先に出迎えてくれたのも、このNANOOKだ。

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修行中のシベリアン

犬舎には若い訓練生が入っているが、そり引きベテランは外にそれぞれの小屋が与えられている。小屋といっても簡単に雨露しのげる程度のものだが、彼らは雪の中で寝ることが苦にならない。小屋は、一番山側にアルファ犬が、そしてランク順に谷側へと扇状に並び、犬はクサリでつないである。こうすることで、自分の領域に他の犬が入って来ることを防ぎ、争いがおきずらいのだそうだ。

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雪の原に点在する犬小屋

「この犬たちは、ペットではないんだよ」
と、Bob。彼らはプロの犬ぞり犬である。数十頭の犬が、軍隊のように厳格な階級組織に身を置き、彼らなりの規律に従って行動している。新参者は必ずメンバーによる「洗礼」を受け、自分のランクを知らされる。誤解のないように言えば、どの犬も人間に対してはとても人なつこくて甘えてくる。だが、犬対犬になると彼らには彼らの対応の仕方というものがあるのだ。私たち人間は、そういった彼らの有り方を理解し尊重しなければならない。

離れの犬舎では、元の飼い主から虐待を受けBobにレスキューされた犬ぞり犬が回復を待っていた。このファームには、レスキューされたのち訓練を受け、今では立派なそり引きとして働いている犬がたくさんいる。

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「私もすっかり更正しました」

この子はティンバーウルフの血を引くハスキーだが、罪なことに前の飼い主は2歳になる息子の遊び相手としてこの犬を買ったのだそうだ。ある日その男の子を噛んでしまい、処分される寸前にBobが引き取った。今ではベテランそり引きである。

ここの犬たちは、Bob と Ann 夫婦手作りのご飯を食べている。数十頭分となるとすごい量と手間だろうが、おかげでみんな健康なのだという。それに、これだけ数が多いというのに全く臭くないのだ。これは驚きだった。

Teagues Lake Dogsledding
Attn: Bob & Anne Metzler
1508 Glendenning Road East
Canobie, NB, Canada E2A 5G2
Tel: (506) 548-9136
teagues@nbnet.nb.ca

paw4.gif (869 bytes)ツアーの種類

私たちが今回参加したのは、犬ぞりとホテル一泊のパッケージ$315(くわしくはわんちゃんと旅行「犬ぞり体験と雪山サバイバルへ)だが、ここには犬ぞりだけの様々なパッケージがある。それぞれ野生動物のユニークな名前がついている。(料金は2002年1月現在)
北米中いろいろな犬ぞりファームをネットで調べたが、ここの料金はホントにお徳だ。

QINNIG(犬)…大人1人$75、家族4人$195
犬ぞり体験と自然観察2時間、軽食

AMAROK(狼)…大人1人$150、家族4人$250
犬ぞり体験と自然観察4時間、ランチ

WAPITI(ヘラジカ)…大人1人$250
犬ぞりを丸一日体験できるVIPパッケージ。本物のマッシャー体験ができる。

NANOOK(北極熊)大人1人$1,000
二泊三日の犬ぞり旅行。マッシャーとして自分のチームやそりのケアをしながら、森の中でテントやキャビンでキャンピング。食材・キャンピング用品・キャビン付き。

paw4.gif (869 bytes)犬ぞりファッション

マッシャーは犬が遅いときは自分も足でこいだりするし、ブレーキを踏むのに体重を乗せたりして結構体を使う。気付かぬうちに汗をかくので、肌に触れるものは汗を吸い取るものを身につけた方が良い。

そして、防寒!防寒!防寒!あつくなったらあとで脱げばいいのだから、重ね着してしっかり防寒する。見てくれにこだわると、後悔する。おしゃれしたって、どーせ見物しているのは鹿や熊だ。意外と役に立つのは、軍の払い下げ品。丈夫で実用的なことにかけては、他のどんな有名スポーツ衣類メーカーにもひけをとらない。

以下は、普段あつがりのTABIママが身につけたものリスト。寒がりの人は、もっと防寒しよう。また、日焼け止めと薬用リップクリームは必需品だ。

paw4.gif (869 bytes)犬ぞり講習

実際のトレイルに出る前に、ファームの練習場で犬ぞりの引き方を教わる。TABIパパ・ママそれぞれ1チームずつ、犬ぞりと犬を借りることになった。またこういうアドベンチャーものにはつきものだが、「全て自分の責任において行動します」という意味の契約書にサインをした。ま、こちらには「転んですりむいた」とか言って高額の慰謝料を請求する輩が多いので、こういうものが必要なのだ。

TABIは、ファームにあるキャビンの中でお留守番。
この子はそり犬としての経験はおろか訓練さえ受けていないので、とても犬ぞりチームに混じってそりを引くことはできない。そればかりでなく、このファームのそり引き犬たちはそれぞれのチームリーダーを中心に固く結束しており、いきなりよそ者が入ってきたらチームワークがくずれてしまう。

ということで、TABIはファームの中には入れるもののトレイルには一緒できない。これは、すでに事前にメールで問い合わせてお互い了解していたことなので、私たちは組み立て式クレートを持参してTABIを置いていくことにした。

さて、今回のそりは4頭立て。
先頭にリード(先導犬)が2頭、後方にウィール(車の車輪の役目)が2頭。そりの前方にまっすぐ伸びるロープをトウ・ラインと呼び、これがピンと張っている状態を保つよう注意する。犬のハーネスとトウ・ラインを結ぶロープをタグ・ラインと呼ぶ。走っていて時々犬の足がこれに絡まってしまうことがあるが、たいてい犬が自分でなおすようだ。

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そりは木製で、人や荷物を乗せるバスケットの部分が前方にあり、その後ろにマッシャーが立ったまま乗り、犬を操縦する。バスケットの下にスキー板のような部品が二つ平行に取り付けてあり、走っている間はマッシャーはその板の上に足を乗せる。

コマンドだが、マッシャー独特のものがある。
Hike(行こう、速く)
Gee(右へ)
Haw(左へ)
Easy(ゆっくり)
Whoa(止まれ)

止まる時は、Whoaと声をかけ、そりの後方についたアルミ製のブレーキを踏む。ブレーキを離すと、犬が猛スピードで走り出す。カーブを曲がる時は、ちょうどスキーと同じように体重を移動するとうまくいく。自分のチームの先頭と、前を行くそりとの間隔は最低10フィート(約3メートル)あけ、間隔がせまくなったら減速するかそりを止めて待つ。

トップ・ドッグが2頭も産休中のため、今回そりを引いてくれたチームはいずれも昨年夏から本格的訓練を始めた若葉マーク組だ。よそ者の私の言うことなんか、聞いてくれるのか?と一抹の不安があったが、彼らはものすごく良く訓練されていて素晴らしい走りを見せてくれた。

ファーム内で何周か走って慣れたところで、いよいよトレイルに出ることに。

paw4.gif (869 bytes)いよいよ出発!

Annのチームを先頭に、TABIママチーム、続いてパパチーム、最後にBobがスノーモービルで追う。結構スピードが出る!平均時速35kmというから、かなりのものだ。顔にあたる風が、切るように冷たい。時々ブレーキを軽く踏んでスピードを調節したが、犬の力はすごいものだ。私の犬は全てアラスカン・ハスキーで、TABIとかわらない大きさ。なのに、引っ張る力は意外に強い。

習ったばかりのコマンドをうっかり服従コマンドとまぜこぜにしたりしてしまったが、犬は
「へえへえ、わかってますよ。お客さんの言いたいことは」
といったかんじで、ちゃんと正しい方向に走っていく。たいしたもんだ。

途中凹凸があり、そこを越える時に体重の軽いTABIママはあやうく落ちそうになった。しかし、スキーを思い出してバランスをたてなおし、なんとか振り落とされずにすんだ。しかし、TABIパパは落ちてしまった(笑)。粉雪の中なので痛くはないのだが、軽くなったので犬は喜んで走って行ってしまう。Bobが駆けつけて止めてくれた。このように何かあると、ちゃんと駆けつけてくれるので安心だ。

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休憩して犬と遊ぶのも楽しい

走りながら犬は、オシッコもウンチもする。
これは訓練したものでなく、そり犬は生まれながらにそうすることを知っているのだという。そういえば、近所のシベリアンも歩きながらやっている。言われてみれば、理にかなっている。十頭以上のチームで走っていて、トイレのたびに止まっていたらキリがない。彼らは、器用にちょっと腰をかがめてタタッ、とすませてしまう。また、ノドがかわけばそのへんの雪をバクッ、と飲みこみながら走っている。たくましい連中だ。

行きはとにかく振り落とされないよう、先頭チームを見失わないようにと気が張っていたが、折り返し地点で休憩した後の帰り道ではすっかり犬の操縦に慣れ、周りの景色を見る余裕も。かなりの山奥だが、時々思いがけなく瀟洒なシーダー・ハウスが見えたりする。大きな窓から、中の人がこちらに手を振ってる。あとで聞いたら、Bobの知り合いだそうだ。

絵のような冬景色の中、風を切って走るのは爽快そのものだ。
犬にそりを引かせるなんて、かわいそう…という人もいるが、実際そり犬の様子を見ると、それがとんでもない誤解であることに気付く。彼らはそりを引くのが楽しくて楽しくて仕方がないのだ。途中でブレーキを踏むと、「なんで止めるんだよう」とブータレる犬までいる。むしろ、そり犬にそりを引かせないで閉じ込めておくことのほうが、よっぽど残酷な仕打ちなのではないか。雪を蹴散らしながら疾走するそり犬。彼らは、まさに水を得た魚である。

2時間半後、無事にトレイルを走りぬけ、ファームに帰還。お留守番犬の歓迎を受ける。私たちはそりを降り、がんばってくれた犬たち一頭一頭に声をかけた。そり引き中はすっかりプロの顔で「お仕事モード」になっていた犬たちが、一旦ハーネスをとると子犬のように無邪気に甘えてくる。「遊んで、遊んで」攻撃だ。TABIママチームのウィールをつとめてくれた子は、つい先日の喧嘩で顔を噛まれ、5cmほど縫ったあとが痛々しかった。しかし、彼女は何事もなかったようにそりを引いてくれた。タフだ。

犬たちはこれだけ走っても、20分も休憩したらまたトレイルに出られる体力があるのだそうだ。すごい…

NANOOKは、私たちのトレイルにずっとついて走ってくれた。
べつにそうするように訓練したのではないそうだが、彼は気が向くとお客さんと一緒に出かけるのだそうだ。「この人たち、大丈夫かな。よし、ちょっとついてってやるかい」と思って来てくれたのかもしれない。犬の先頭にたって走ったり、むずかる犬がいると近づいていさめたり、へばってきた犬の横を走って気合を入れたり、何かと頼りになった。

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お疲れサマ、NANOOK
「ごろにゃあ〜〜ん…お腹なでてくれえ」

paw4.gif (869 bytes)ランチ

キャビンに戻ると、TABIが大歓迎してくれた。
「どこに行ってたの?楽しかった?」
と、顔をペロペロ。

キャビンには、古いキッチン薪ストーブがある。このストーブで、犬用ご飯をつくるのだそうだ。Bob はストーブに薪をくべ、シチューの鍋をかけて温め始めた。
「彼特製のムース・シチューなのよ」
と、Ann。

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ムース

ムース?あのムース?!
ムース(ヘラジカ)は大型獣で、このあたりにも多い。Bobの知り合いのハンターが仕留めたムースの肉をもらったので、調理したのだという。TABIママはベジタリアンで肉食しないのだが、ムースの肉を食べる機会なんて一生のうちそうあるものでもないので、ちょっといただいてみた。肉は意外と柔らかく、臭みが全くなく、ビーフシチューのような感じ。Bob によると、コツは肉をビールと香辛料を合わせたものに漬け込むことだそうだ。テーブルのそばにお座りして待っているTABIにも、一切れあげてみる。
「んめえ!!これなに?もっとちょうだいよ」
とばかりに大喜びだった。

ランチをいただきながら、Bob からいろんな楽しい犬や犬ぞりの話を聞いた。とくに、犬の手作り食に関しては盛りあがった。私たちも手作りしていると言うと、夫婦はとても喜んでくれた。たくさんアドバイスももらい、ここに来て良かったなあ、と思ったものだ。

paw4.gif (869 bytes)雪の幻想

ココアをいただきながら談笑していると、急に外の犬たちが一斉に
「ウオオオ〜〜〜ン」
と遠吠えを始め出した。Annは、
「あれはね、ハッピー・ハウリング(幸せの遠吠え)っていうのよ」
と言う。

遠吠え

遠吠えにも様々な種類があるのだそうだ。
仲間の犬が死ぬと、犬たちはなんともいえない悲しげな淋しげなトーンで遠吠えし続けるという。犬だって、「死」が永遠の別れを意味することを知っているのだ。先にあの世へ旅だった仲間の魂に、さよならのメッセージを届ける遠吠え。その音色は、一度聞いたら忘れられない哀調だそうだ。

私達が聞いたのは、降り出した雪がうれしくて始った楽しい遠吠え。
あるものは自分の小屋の屋根に立ち、あるものはワラを踏みしめて、歌うように遠吠えしている。窓から見るその景色は、しんしんと降る雪の中でまさに幻想を見るようだ。TABIも耳をピンと立て、じっとして聞いている。

この美しい様子をカメラにおさめたかったが、今ドアを開けて外へ出たら人間の気配に気付いて遠吠えを止めてしまうかもしれない。せっかくの楽しいムードをこわしては失礼だ。

だから、みんなで屋内から静かに眺めていた。
素敵な幻想を見せてくれた犬たちに、心の中で「ありがとね」とつぶやきながら。

(2002年2月10日)

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