始める前に大事なこと
〜あとになって悔いないように〜

 

paw4.gif (869 bytes)始める前にぜひ健康チェックを

愛犬と一緒に様々なパフォーマンス・イベントに参加する犬飼いが増えつつある。これは、とてもいいことだと思う。なにより犬を運動させる良い機会となるし、飼い主との絆が深まる。

飼い主にとっても、ヘタなフィットネス・プログラムに参加するよりは運動不足解消にずっといいかもしれない。なにしろ運動したくてウズウズしている相棒がそばで尻尾をフリフリしているのだから、自分一人では三日坊主に終わりがちな人でも規則的に外へ出て体を動かす習慣がつく。犬を飼ったおかげで運動量が増え、健康になった人は多い。かくいうTABIママも、超インドアからアウトドアへと変身した一人である。

しかし、トレーニング・クラスの入会を申し込む前に、獣医による犬の健康チェックを受けることを忘れてはならない。

尿検査、血液検査、心臓に雑音はないかなど基本的な健康診断に加え、筋肉や骨格のチェックもしてもらう。激しい運動ができる体かどうか、体格的に無理がないか。あらかじめ包括的なチェックをしておけば、後に怪我や障害が起きた時に比較する基準ともなる。

こうしたチェックは、できればスポーツ獣医学に詳しい獣医にしてもらうのが良い。「ドラフティングをやらせたいのですが」と相談しても、ドラフティングがどんなものか知らない獣医だと、どういう点をチェックしたらいいかわからないからだ。じゃあどうやってそういう詳しい先生を探すか?例えば、自分も愛犬と一緒にドッグスポーツ ・イベントに参加している獣医。スポーツ歴が長い先生ほど、知識や経験が豊富だ。かかりつけの先生に率直に話して、紹介してもらうのもよい。もちろん、犬の訓練士ならどこの獣医が何を専門としているかよく知っているから、聞いてみるといい。

犬のパフォーマンス・イベントに詳しい獣医 Christine Zink は、彼女の著書 Peak Performance の中で以下のように述べている。

"Before a dog is started on a fitness program, it should be given a complete physical examination by a veterinarian.  ...... The dog should have its hips radiographed and the films should be sent to the OFA or a board-certified veterinary radiologist for evaluation."  (犬をフィットネス・プログラムに参加させる前に、獣医による徹底的な健康チェックを受けさせるべきである。…犬の股関節のレントゲンを撮り、OFAに送るか放射線学会認定専門獣医に評価してもらうべきだ。---TABIママ訳)

認定専門獣医は、一般の獣医学を修めたあとに専門分野に関してさらに数年勉強し、試験に合格し、トレーニングを積んでいる獣医のことである。 放射線の他にも、皮膚科、整形外科など様々な専門がある。専門獣医に診断してもらうには、かかりつけの獣医から紹介してもらう必要がある。

股関節のレントゲンを正確に読影するのは難しいそうで、こちらでは一般獣医でなく専門獣医に診てもらうのが普通だ。カナダでは、獣医大学(OVCまたはAVC)にレントゲンを送って専門獣医に評価してもらえる。

OFAは、動物の遺伝的疾患の研究を行っているアメリカの非営利民間団体である。犬の股関節のレントゲンを送ると、放射線学会認定専門獣医による評価をしてもらえる。アメリカにはもう一つ、ペンシルバニア大学付属のPennHIPという機関がある。ここでは犬の股関節異常の研究を専門に行っており、やはり専門獣医にレントゲンを評価してもらえる。

日本の犬飼いも、かかりつけの獣医を通してOFAやPennHIPの専門獣医に評価してもらうことが可能だ。ただし、Pennの場合はPenn専門のトレーニングを受けた獣医にレントゲンを撮影してもらう必要がある。また、OFAやPennの評価も万全というわけではなく、それぞれ一長一短がある。事前によく調べ納得した上で、どちらで診断してもらうか決めるといいだろう。両方で診てもらうケースも、少数だが存在する。

股関節形成不全は、ロットワイラー、ジャーマンシェパード、ラブラドール、ゴールデンなどによく見られるが、雑種を含め全ての犬に発症する可能性がある。異常があることに気づかずにスポーツをさせ、あとになって後悔することのないように、ぜひ検査は受けさせたいものである。また、レントゲンを撮らなければ正確な診断はできないそうだ。触診やゲイト(犬が歩く様子)の確認だけで「大丈夫」と獣医に言われたら、きちんと検査してくれる獣医を探すべきだ。

ちなみにTABIは、アジリティに入門する前にかかりつけの先生にじっくり診察してもらった。その後、別の病院で股関節と後ろ足のレントゲンを撮り、そのレントゲンはAVCへ送られ放射線学会認定専門獣医により診断された。合計で6人の獣医に診てもらい、「全く異常なし」とのお墨付きをいただいている。

paw4.gif (869 bytes)子犬には無理をさせない

本格的なスポーツに参加するにあたり、獣医から念を押されたことは「骨端成長線が消えるまで無理な運動はさせない」ということである。

成長線は成長期の骨に見られ、これがある間は骨は伸長する。人間の子供にも同じものが見られる。伸長している間はこの部位はもろく、ダメージを受けやすい。では犬はいつごろ成長線が消えるかというと、だいたい生後12ヶ月だという。もちろん、犬種により時期は異なり、また個体差もある。エアデールテリアなどは、生後3年間はゆるやかに成長し続けるという。より正確に診断するなら、レントゲンを撮ることだ。

だいたいの目安として、生後14ヶ月を過ぎたらぼちぼち成犬と同じ本格的なトレーニングを始めても良いと言われる。それもいきなりハードなトレーニングではなく、徐々に様子を見ながら、である。

それまでは、アジリティのウィーブポール、自転車引きやジョギングのお供、競技会レベルのジャンプ、重いものを引っ張らせる、フリスビーのジャンプキャッチなどは厳禁だと言われる。

ウィーブは、狭いポールの間を犬が体をくねらせて進む障害物だ。骨が柔らかいうちにこれをやり過ぎると、背骨に障害が残り年をとってからそのツケが必ず出るそうだ。また自転車引きやジョギングのお供は、アスファルトを蹴ることによる衝撃が成長期の骨・関節に悪影響を与える。ジャンプは、服従でもアジリティでも、競技会では犬の体高とほぼ同じかそれ以上の高さを跳ぶ。成長期の犬の前足にかかる負担は大きい。 犬そりなど重いものを引っ張ることは、たとえ専用のハーネスをつけたとしても子犬の体に負担となる。また空中高く飛んだフリスビーをキャッチする際、犬は空中で体を不自然にねじってしまったり、着地を誤って成長期の柔らかい背骨や関節を痛めやすい。

成長期の無理なスポーツによる悪影響は、人間ではかなり前から問題になっている。「リトルリーグ・ショルダー」という言葉を耳にした人は多いだろう。犬も同様に、成長期に体を酷使することによる障害は頻繁に見られるという。 獣医によると、たとえ犬が若い頃には気づかなくても、中年期に入る頃には確実に症状があらわれてくるのだそうだ。

競技会に出場できる年齢制限が、アジリティでは生後18ヶ月(AAC)、フライボールでは生後12ヶ月(NAFA)以降と定められるようになった背景には、過去に幼い子犬を無理にトレーニングして若いうちから競技に出したがため、スポーツ障害が続出したという、苦い事実があるのだ。

かといって成長線が消えるまで家にこもっていろ、というわけではない。柔らかい体に無理のない運動なら、むしろやったほうが犬の健康のためだ。野山をリードなしで自由に歩く、砂浜や平らな草原を走る、など。また、獣医は水泳をよく薦める。水中では浮力により体重が陸上の何分の一にも減少するので、筋肉や関節を痛めずに体力をつけることができる。なので、子犬だけでなく関節の悪い犬や、怪我のリハビリにも良いと言われる。ジャンプも、犬の肘の高さより高く跳ばないということとやり過ぎないという鉄則を守れば、子犬の頃からでも練習ができる。

本格的なスキル・トレーニングに入る前に、コンディショニングをして体力をつけておくことは大切だ。

paw4.gif (869 bytes)さらに一言付け加えるならば

「でも、世間では若い犬をどんどんトレーニングしているじゃない?」
と言う人もいるだろう。確かに、先に述べたようにアジリティでは生後18ヶ月、フライボールでは生後12ヶ月で競技会デビューするということは、実際にはかなり幼い時期から本格的トレーニングをしていると考えて間違いない。真面目に成長線が消えるのを待っていたら、そんなに早くデビューするのは難しい。

名前は挙げないが、有名なハンドラーたちの中には「史上最年少でかくかくシカジカのタイトル獲得」といった評判を持つ犬と競技している人々がいる。こういうのに憧れて、「さすが有名なハンドラー!」と感心するのは早い。彼らの犬は、デビューもタイトルをとるのも早いが、怪我や障害で引退するのもおそろしく早いのである。しかも、その犬の引退時にはすでに次のルーキー犬がトレーニングを終え出番を待っている。 競技スポーツにおける多頭飼いの実態とは、このようなものだ。

こうした犬の使い捨て現象に関して、犬飼いの間では賛否両論ある。確かに、犬を本当に好きな人にとってはこういった状況というのは見ていてつらい。だが、動物が関係するスポーツでは、競馬であれドッグレースであれ何であれ、動物は所詮「道具」として扱われがちなのは 、悲しいがまぎれもない現実である。人により考え方はいろいろであり、「犬は道具」と考える人がいても、それはそれで仕方ないことではないだろうか。

個人的には、自分のかわいい犬に年をとってから痛い思いをさせたくないし、タイトルや名誉なんてどうでもいいと考えている(もちろん、優勝してロゼットや賞品をもらうと嬉しいけどね…笑)。犬と一緒に遊ぶのが楽しいから、スポーツに参加しているのだ。幸いにも、スポーツ障害についてきちんと説明してくれる獣医に恵まれ、無理のないトレーニングをしてきたつもりである。競技会デビューも、3歳を過ぎてからだ。

アメリカのアジリティ・トレーナー、Bud Houstonはこう言っている。
Agility is just a game we play on the weekends in the park with the family dog.
(アジリティってのは、週末に愛犬と遊ぶ、ただのゲームだよ 。---TABIママ訳)

まさにその通りだと思う。あまりスポ根になって突っ走ってしまうと、犬を犠牲にしてしまう。これから愛犬とスポーツに参加しようとする方々も、是非犬の体を第一に考えて、楽しい思い出をたくさん作って欲しい。

参考: "Peak Performance - Coaching The Canine Athlete" by M. Christine Zink, D.V.M., PH.D.

(2005年1月15日)

コンディショニング

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