楽しければそれでいい…?

「リーダーになれとか何とか、犬にいばりちらすのはどうかと思う。自分は愛犬と楽しく遊べればそれでいい」

こいいう考えの人は多い。ペットの犬に訓練などいらない、という意見は根強いようだ。

TABIママが旅先で出会った女性も、やはりずっとそう考えていたそうだ。愛犬(ジャーマン・シェパード)を生後1年で失うまでは。

「LUKEは警察犬じゃないもの、厳しく躾なくたっていいわよね」
と、家族全員でその犬をかわいがっていた。

シェパードは警察犬のイメージがあるので、放っておいてもああいうキビキビとした立派な犬に育つと勘違いされがちだ。しかし、警察犬として働く彼らは、長く厳しい訓練を耐え抜いた結果なのだ。その過程なくしては、お利口に生まれたシェパードも、ただの大柄な甘えん坊にしかならない。

LUKEもそんな甘えん坊だった。
"Come"
と呼んでも来ない。しょうがないわねえ、と笑ってすませていた。

そんな夏のある日。
息子がフロントヤードで犬とボール遊びをしている間、彼女はポーチに腰掛けて本を読んでいた。投げたボールがそれて、芝生を横切り、道路にころがった。犬はそれを追う。

右手から黄色いスクールバスが来るのが目に入った彼女と息子は、
"Come, LUKE"
と大声で呼んだ。犬はボールに夢中。
彼女は立ちあがり、息子は犬を追い、声を限りに叫んだ。
"LUKE, come!! Get back here LUKE!!!"
犬は嬉々としてボールを口にくわえる。
バスの運転手はブレーキを踏んだが……

"Come" は最も重要なコマンドといわれる。

一見、教えるのは簡単なコマンドでもある。犬は飼い主のそばにいたいのが普通だから、おいでと言えば飛んでくるものだ。周りに何もなければ。

しかし、何か犬の興味をひくものが目に入ったら?風に舞う枯葉、宙を飛ぶテニスボール、よその犬…
次の瞬間、犬の全身はその対象物へ方向転換する。それは、獲物を狙う犬の本能であり、その本能を消し去ることはできない。

だが、飼い主から距離をおいた犬に危険が迫った時、何がなんでもこちらへ呼び戻さなければならない時、"Come"コマンドを実行させなければならない。野生の犬ならば、警戒音で吠えて相手に危険を知らせるだろう。しかし、悲しいことに私たちは犬語を話せない。人間の言葉で、警告を与えなければならない。

追いたくてムズムズしているものを潔くあきらめて、飼い主のもとへ戻る犬は、飼い主をリーダーとして認め、絶対的に信頼している。本能を奥へ押しやるほど、飼い主とのきずなが強いということだ。

これは単に「飼い主のことが好き」ということとは、違う。帰宅するたび犬が玄関で出迎えてくれるからといって、犬があなたをリーダーとして信頼しているとは限らない。

こうした強いきずなは、犬をただ猫かわいがりする日常からは生まれてこない。日ごろから犬に対して群れのアルファたるにふさわしい態度をとることや、訓練の積み重ねが、犬からの絶対的信頼を勝ち得るために大事なことなのだ。

人により考えはそれぞれなので、
「楽しければいいじゃない」
という意見の人がいても、それはそれでかまわないと思う。だが、私はTABIをLUKEのような形で失いたくない。犬にとっても飼い主にとっても不幸だし、とくに残された飼い主にとっては一生消えないトラウマになる可能性がある。

私はこれからも、TABIにとってきびしいママであるよう努力するつもりだ。

(2001年3月18日)

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