犬に訓練は必要?
「訓練学校にわざわざ行かせるなんて、過保護すぎるよ。 うちで昔飼ってた犬は、庭につないどいただけだけど、よく言うこと聞いたよ」
TABIを犬の訓練クラスに行かせることをメールで日本の知人に知らせたところ、 こんな返事が返ってきました。 彼女だけでなく、日本の友人の多くが犬の訓練に対して否定的な意見を持っていることが わかり、ちょっと驚きでした。なぜなら、私のカナダの知人はほぼ100%、「訓練は必要」 という考えだからです。
TABIが赤ちゃんのうちから、「どこそこのトレーナーが評判がいい」 「うちの犬はあそこのクラスにいかせている」などと、みなこぞって情報を提供してくれました。べつに学校に通わせなくても、訓練は可能です。犬に関する知識・経験が豊富で、 訓練の基礎を身につけている飼い主なら、自宅で十分基礎訓練ができると思います。
もちろん、学校に行かせるにはそれなりの費用がかかるので、経済的にそんなに犬に予算をつぎこめない場合は、自宅での訓練を選ぶことになるでしょう。
学校に行かせるにしろ、自宅でしつけるにしろ、どんな犬も基礎訓練は必要ではないでしょうか。
犬は動物なのだから、自由にしたいようにさせるべき?訓練なんてかわいそう? |
訓練しないほうがかわいそうだと思います。
犬は社会性の動物です。野生では、群れのリーダーをトップに、階級組織のなかできびしいルールを守りつつ暮らしています。
リーダーが「何をすべきか」を
示し、群れはそれに従います。「自由にしたいようにしている」犬は、群れの中で生きることはできません。
母犬は、秩序を守らない子犬を容赦なく叱責します。かわいいから、とつい子犬を甘やかしがちな人間の飼い主とは大きなちがいです。
人間に飼われている犬にとっては、飼い主がリーダーです。飼い主が「何をすべきか」を教えて あげるのが訓練です。 リーダーがリーダーらしく君臨せず、なんの指示も与えなかったら、犬は混乱します。100%の自由は 、犬にとってありがたいものではないはずです。
混沌のなかで犬は、一日中吠えまくる、手当たり次第噛み尽くす、飼い主に攻撃的になる(自分が リーダーであることを飼い主に示す)、やたらに甘えてわがままになるなどの、問題行動をおこしてしまいます。
また、リーダーにはそれなりの責任が伴います。ただいばるだけでは尊敬されないのはもちろん、群れを混乱させます。どんな状況下でも冷静に的確な判断を下すこと、公平であることなど、飼い主そのものがリーダーとしての基本を学ぶのも 犬の訓練学校なのです。
問題犬だけが訓練学校に行くのでは? |
「鉄は熱いうちに打て」といいますが、 問題犬にしてしまわないうちに訓練することが大事だと思います。
基本的な「お座り」「伏せ」などは、生後8週間の子犬でも簡単にマスターできることです。必要 なのは、そうした形だけを覚えさせるのではなく、訓練をとおして飼い主(リーダー)と犬(群れの一員) との関係と信頼を築くこと。そして、いかに合理的に、飼い主が犬に望んでいることを犬にさせる か、その方法を学ぶことです。
うちの犬も一度クラスに連れて行ったけど、それっきりで今じゃ全部忘れちゃったけど? |
私のトレーナーがいつも言うことですが、訓練は一度したからそれで終わりなのではなく、 継続することが大事だと思います。
自分のことを振り返ってみても、一度習ったから今でも使えるものって少ないですよね。
大学で第二外国語にフランス語をとったみなさん、Comprends-tu toujours
le Francais?
犬だって同じです。使わなければ忘れます。一日5分でもいいから思い出して訓練を再開する
べきです。
玄関のドアを開ける前、散歩中に犬のフンを飼い主が始末する間、エサをあげる前などに、必ず 「お座り」「待て」をさせるのも訓練です。
血統書つきのチャンピオン犬ならいざ知らず、犬にお金かけすぎじゃないの? |
必ずしも学校に通わせなくても訓練は可能です。
でも、私のような犬初心者にとっては、学校でトレーナーからプロのやり方を学ぶこと自体が とても勉強になります。犬のためというより、自分のために通っていると思っています。
それに、何のしつけもせずわがまま犬を育ててしまった場合を考えてみてください。 ブランドもののバッグをかじられてしまった、お客さまのスーツにオシッコをしてしまった、トイレの配管 をこわして家中水浸しにしてしまった・・・ そういった「損害額」を考えたら、学校の授業料など安いものではありませんか。
カナダって、ずいぶん犬にうるさいところなのね? |
そのとおりです。
愛犬家が多いところでもありますが、飼い主の責任も重いところです。
「犬ころのしたことだから、おおめに見てよ」
は通用しないと言っても過言ではありません。
州によって、また地方自治体によって ペットに関する条例 が異なりますが、私の住んでいる市の条例はきびしいようです。散歩中に犬がしたフンの始末を始め、さまざまな責任がその飼い主にあります。
市のサイン
「犬はリードにつなぐこと。
犬のフンは飼い主が必ず始末すること」
違反すると、軽犯罪で処罰されます。
自分の犬がよそのうちの飼い猫を噛み殺したり、人を噛んで大怪我させた場合には、飼い主の責任において薬殺です。
「犬は本能に従っただけで、何の罪もないのに」
という声が聞こえてきそうですが、これは犬に対して冷たいのではなく、自分の飼い犬を
コントロールできない飼い主そのものをきびしく罰しているのです。こうした悲劇に終わらないためにも、普段から犬を訓練することが大切だといえます。
カナダは、ほんとうに犬好きが多いところです。
犬を連れていると、私のような東洋人にもごく気軽に声をかけてきます。誰もが犬の名前を聞き、次に会ったときはちゃんと覚えてくれていて、こっちがびっくりします。人に飛びついたり、服のすそをひっぱるなどお行儀の悪いことをすると、他人の犬でもきちんと
叱ってくれます。犬をコミュニティーの一員として迎えてくれる風土があります。
そのかわり、犬もコミュニティーのルールを守らなければなりません。そのルールを教えるのも 飼い主の責任です。きちんと訓練された犬は、誰からも愛される幸せな犬になれるのです。
(2000年11月26日)
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