「カナダでは、どんな犬に関する法律があるのか?」
と、日本の知人から聞かれることがある。
まず認識する必要があるのが、カナダは政治形態が連邦制であるということである。カナダは連邦政府が決めた連邦法のほかに、各州・各地方自治体ごとに定められた法律・条例がたくさんある。ペットに関するきまりも、住んでいるところによってまちまちだ。
だから、一概にカナダはこう、と言うことができないし、言ったらサギだ(笑)
私が伝えることができるのは、西から東まで全土で適用される連邦法と、自分が住んでいるところの条例である。
ここでは、連邦法である The Criminal Code と、私の市の条例である The Dog Bylaw について説明するので、参考までにどうぞ。
The Criminal Code |
連邦議会により立法された刑法で、カナダ全土で適用されている法律である。
ペットの飼い主にかかわりがあるのは、446条 Cruelty to Animals
( 動物虐待 )。
なかでも、1-a は重要だ。
Every one commits an offence who:
wilfully causes or, being the owner, wilfully permits to be caused unneccessary pain, suffering or injury to an animal or bird.動物・鳥を故意に傷害若しくは苦痛を与えてはならない。また故意に飼育する動物・鳥に無用な傷害若しくは苦痛を生じさせてはならない。(訳責:TABIママ)
具体的には、真夏日に犬を庭につなぎっぱなしにして水皿が空っぽなのに気が
つかなかったり、車の中で留守番させて熱中症にかからせてしまったケースなどがこれにあたる。
そこまでひどくないにしても、「暑い日に庭につなぎっぱなし」や「車の中で留守番」ということじたいが
事故をまねく行為と言われているので、たまたま見かけた通行人が警察や※SPCAに通報したら、
飼い主のあなたは逮捕される。
有罪が確定すると、6ヶ月の懲役刑または2,000ドルの罰金である。
「犬を留守番させただけで、ブタ箱に半年も?きつすぎ!」
と思うかもしれないが、そういう決まりだから何を言っても無駄だ。
この法律は、カナダに在住している者のみならず、外国からの観光客にももちろん適用される。犬連れでカナダを車で旅行しようと計画している方は、ご用心。
それではカナダ人は、決して犬を庭につないだり、買い物に連れていって車の中で 留守番させたりしないのか、というと、そんなことはない。けっこうみんなやっていることだ。なぜなら、まずこの法律を知らない人が大多数であること。次に、悪いことと知っていても 「他にどうしろというの」とひらきなおって(?)いる人もいること。「赤信号、みんなで渡れば 怖くない」理論だ。だがたまたま運悪く、熱血動物愛護人間にこの違法行為を見咎められたあかつきには、 手が後ろに回るのである。注意するに越したことはない。
実際私も一度、愛犬を車で留守番させ、買い物をして車にもどったところ、通りかかった老婦人に
「あなた、自分がどんなに残酷なことをしているかわかってるの!」
と、いきなりどなられたことがある。その時はまあ、通報されなかったので、前科者にならずに済んだ。そして、そのことがきっかけでこの法律のことを知ったのである。
ちなみに、車の中で留守番させるとき、大人一人が犬と一緒に車に残ればいいのだそうだ。
※SPCA=Society for the Prevention of Cruelty to Animals 動物虐待防止協会
実例 |
”犬虐待容疑で告発”
(2001年1月27日発行 The Daily News より、訳:TABIママ)
クイーンズ・カウンティで栄養失調のため極度に衰弱した犬が※RCMPによって保護され、飼い主の男性が告発された。
地元のSPCAから通報を受けたRCMPが駆けつけたところ、生後数ヶ月の黒ラブが物置につながれ、栄養失調と脱水症状をおこしていた。この子犬は、空腹のため自分の糞尿を食べて生き延びていたと見られる。
子犬はサウスショア動物病院に入院し治療をうけている。獣医師によると、子犬は回復に向かっているという。
この飼い主は、過去にも同じ容疑で有罪判決を受けている。今回の告発により州立裁判所への出廷が命じられた。
※RCMP=Royal Canadian Mounted Police カナダ連邦警察
The Dog Bylaw |
私の住んでいる市では、By-Law D-100 というのが犬の飼い主が知らないとヤバい条例である。なかでも重要なのは、「ドッグライセンス」と「飼い主の管理責任」の項だ。
By-Law D-100 ドッグ・ライセンス
全ての飼い犬は、市に登録し、そのライセンス・タグを常に身につけていなければならない。
ライセンス番号からその犬の飼い主が誰か調べることができる。
登録料は、犬によって異なる。
料金は、1が最も高く、だんだん安くなって、4がひじょうに安い。これはもちろん、犬の予防接種と去勢を奨励する意味で決められたことだ。プロのブリーダーで ないものによる犬の繁殖は、市は基本的に否定的な姿勢をとっている。
By-Law D-100 section11 飼い主の管理責任
以下の場合、飼い主の管理責任が問われる。
|
||
犬立ち入り禁止 | オフリード禁止 | オフリードOK |
罰則
条例に違反した者に有罪判決が下ると、最高500ドルの罰金または最高10日間の禁固刑が科せられる。セクション11に違反した犬の飼い主に有罪判決が下ると、最高5,000ドルの罰金または最高30日間の禁固刑が科せられる。
さらに市は、条例に違反した飼い主から犬を没収することがある。犬は、致死処分か犬収容所送りになる。収容所送りになった犬は、新しい引き取り手が見つからない場合、致死処分となる。
実例 |
市内のある医師宅の飼い犬がおこした事件。
裏庭に侵入してきた近所の猫を、この犬は追いかけて噛みついた。猫はその傷がもとで死亡。猫の飼い主は、この顛末を市に報告、犬の飼い主の管理責任を追及する訴えを起こした。裁判では犬の飼い主が有罪となり、犬を薬殺処分するよう命じられた。
死亡した猫は、爪を手術で抜かれていた。大事な家具類を傷つけないよう、子猫のうちにこうした処置を獣医にしてもらう飼い主は多い。爪を抜かれた猫は、自分に危険が迫ったとき木に登るなり相手を攻撃するなりして身を守ることができない。そうしたいわば「無防備」な猫を攻撃したこの犬は、「獰猛で危険きわまりない」と判断されたのである。
私は、この判決には納得がいかない。
この件に限って言えば、侵入してきたのは猫のほうである。番犬として特別の訓練を受けていなくても、たいていの犬なら自分の領域に闖入したものがあれば警戒するのは自然ではないか。猫だって獰猛なのがいる。飼い慣らされているとはいえ、犬も猫も動物であることに変わりない。本気で攻撃されれば、野生の世界のような命をかけた闘いになってしまうのは仕方がないのではないか。第一、そんな「無防備」な猫は自分の所有地から出ないようにするのが、猫の飼い主の責任ではないのか。
私は法律の専門家ではないので、この判決が理不尽なものかどうかはわからない。ただ言えることは、私の住む市は犬とその飼い主に決して甘くない。自分の犬はきちんと訓練して、常に厳しい管理のもとにおくことが必要であるということだ。
参考:
Criminal Law & the Canadian Criminal Code / Serrie Barnhorst, Richard Barnhorst
HRM Dog Bylaw, Dog information
(2001年3月9日)
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