ウサギの巣
2010年)

 

思いがけない発見
8月24日

芝刈りをしていた夫が、「ちょっと来て」と呼ぶのでバックヤードに出てみると、一箇所だけ刈り残した芝がこんもりと山をつくっていました。芝を刈っていたら何かが動いたのが見えたので、びっくりして芝刈り機を止め、草の中をのぞいてみたら「何かがいるんだよ」とのこと。そこで、早速見てみると…

何かの巣?
何かの巣?

「野ネズミかなあ」と言いながらも触るのが怖い夫にかわり、私が生きのいい一匹をつかまえて手のひらに乗せ観察。ネズミにしては大きいし、長い耳やまだ毛が生えてない体の形からして野ウサギのよう。もぞもぞ動く赤ちゃんは体長十センチにもみたず目も開いておらず、手足の爪もと〜っても小さい。でも意外に重く、暖かく、力強い心音が手に伝わってきます。 数えてみると、全部で五匹。柔らかい親ウサギの毛と枯れ芝で作った寝床で、すやすやと眠っています。

生まれて二、三日くらい
生まれて二、三日くらい

野ウサギには昨年の秋以来、さんざん庭を荒らされて頭に来ているところ(野ウサギ対策参照)。パティオにあるバーベキューで丸焼きにしてやりたいくらいだけど、さすがに罪のない赤ちゃんにそれはできません。 私はカメラを持ってきて子ウサギの姿を撮影したあと、巣に戻して元のように枯れ草で包み、芝をかけてカモフラージュをしてあげました。

野生動物の子供を家に持ち込み飼うことは法律で禁止されており、また孤児となった赤ちゃん動物のレスキューの仕方についても動物により様々な決まりがあるので、勝手な真似はできません。そこでネットで 情報を調べてみました。 たいていの地区の野生動物保護施設はウェブサイトがあり、野生動物が民家に巣を作ったのを発見した場合にどうするべきかの情報を載せています。それによると、野ウサギは民家の庭に巣を作ることがよくあるが、子が巣立つ まで放っておいていいそう。母ウサギは子のそばにつきっきりでいることはありません。天敵に見つかってしまうからです。一日に一度か二度訪れて授乳したりして 世話をしていくそうです。よく、「人間が触れると、その巣には母親は絶対に近寄らない」と言うけど、それは迷信だそう。 人が住まない野生の森はともかく、民家に平気で入ってくる動物は人間のニオイや気配に慣れているので、巣が破壊されたり子が傷つけられたりでもしない限り、巣を見捨てることはないのだそうです。そういえば、これまでにもあちこちで野生の鳥や動物の巣を見つけ、触ったりしたけど、それぞれ母親はちゃんと戻ってきて普通に世話をしていましたね。

母ウサギ
8月25日

自分ちの庭にいると思うと、なんだかうちで飼っているような気分になるから不思議なもの。TABIも、赤ちゃんが気になって仕方がない様子です。よく「犬は狩猟本能を刺激されて子ウサギを殺そうとするから、遠ざけないといけない」と言われますが、犬友達に聞いてみると犬によって様々のよう。近所のスパニエルや友人のテリアは、庭に侵入した野ウサギを追いかけて殺すのが趣味。でも、別の友人の雑種犬はやはり野ウサギの巣を見つけたとき、まるで自分の子犬のように見守っていたそうです。

「赤ちゃんウサギがいるよ!」
「赤ちゃんウサギがいるよ!」

TABIは朝、ドッグドアからバックヤードに出るやいなや、ウサギの巣がある場所へ走ってゆきニオイをくんくん。振動を感じると子ウサギは母親が来たと思って動き出すので、その様子を見てウキウキ尻尾を振っています。そのうちウサギが ぴょんぴょんジャンプし始めます。まだ目が見えないのにさすが跳躍力はすごく 、炒り豆のように飛び上がるのです。それがおもしろいらしく、ずっと飽きずに観察するTABI。ウサギを食べるつもりはなさそう。

赤ちゃんのニオイをかぐTABI
赤ちゃんのニオイをかぐTABI

野生動物保護施設のサイトで教えてもらった方法で、母ウサギの存在を試すことにしました。 巣の上に枯れ枝でバッテン印をして、その後バッテンが動かされているか どうか観察するのです。 夕方あたりが暗くなってきたころ、ふと庭を見ると 巣の上に大人のウサギが。頭を巣につっこんで何かしている様子、これは 母ウサギに違いありません。カメラを持ってくる間に、隣のうちの塀をくぐって 逃げてしまいました、巣を確認すると枝がどけてある! そして、巣はこれ以上ないというくらい丁寧にきちんと子ウサギを包み隠し 、草でカモフラージュしてありました。やはり、彼女が母ウサギでした。このあたりにたくさん生息している、コットンテールと呼ばれるウサギです。

たった一日でグンと大きくなった赤ちゃん
たった一日でグンと大きくなった赤ちゃん

ウサギらしくなった赤ちゃん達
8月28日

毛が生えてウサギらしくなりました。
毛が生えてウサギらしくなりました。
TABIは興味津々

母ウサギが毎日巣を訪れている限り、赤ちゃん達は大丈夫。でも野ウサギには天敵がいるし、車にひかれてあの世へ行ってしまうウサギもちらほら見かけます。母ウサギが死んでしまった場合、一日で赤ちゃんは脱水症状、二日目には死亡率が高くなると言われます。そこで、母ウサギがちゃんとお乳を飲ませに来ているか、枝テストを毎日して確認しました。

枝が動いてなかったら、野生動物保護施設へ連絡して赤ちゃんを救済する必要が出てきます。素人の私達では、とても野生のウサギの赤ちゃんを世話することは無理。プロの野生動物保護官や野生動物専門獣医でさえ、つきっきりで世話をしても赤ちゃんの生存率は一割に満たないそうです。というのは、コットンテールの母乳は非常に特殊で、少量で充分な栄養がとれるようかなり濃く、牛乳や山羊乳、人間の母乳などでは代替になりません。また野ウサギの子供は、親ウサギの糞を食べることで消化に必要な酵素を体内に取り入れるので、親がいないと草を食べても消化できず、結局は死んでしまいます。野ウサギは、ペットとして飼われている一般のウサギとはかなり異なる生き物なのですね。

動物保護施設によれば、困るのは子供を持つ(人間の)親達が「子供の教育にいいと思って」などと言い訳をし、野ウサギの赤ちゃんを家の中に持ち込み、さんざん子供の遊び相手としていじくった後、ぐったりと死にかけたウサギを箱に入れて「助けてあげて」と保護施設に持ち込んで来る事。本人達はウサギを助けたつもりになっているので、始末に終えない!ペット用のウサギと野ウサギは違うのだと、教えてあげるのが本来親としてすることではないでしょうか。

さて、 母ウサギは確かに一日一回は授乳に訪れているらしく、赤ちゃんは日に日に 驚くべき早やさで成長しています。初めて見た時はネズミだかウサギだか わからないような裸の生き物だったのが、今では毛がだいぶ生えて黒や白 のマーキングもはっきりしてきました。体の形も、すっかりウサギらしくなりましたね。

まだ目が開いてないので動きがにぶく、振動を感じるとみんなこぞって巣から 出ようとします。母ウサギが来たと思うのでしょう。TABIはすっかり子守が 上手になり、巣から這い出ようとする赤ちゃんをそっと鼻先で押し込んだり、巣のすぐ横で見張りをしたりしています。

子守をするTABI
子守をするTABI

人間を含め動物には、幼子を見ると「守ってやりたい」という本能が働くようです。動物の赤ん坊の丸い頭、小さな手足、 平べったい顔、つぶらな瞳、頼りなさげな動きなどは全て、大人の動物に 攻撃本能を失わせるためにあるのだと聞いたことがあります。赤子独特のハイピッチな泣き声も、 同様です。よく犬のメスが捨て猫の赤ん坊を自分の乳で育てている、という ような話を聞きますが、種族が違っても赤ん坊は大人の動物の母性・父性本能を刺激するのではないでしょうか。

目が開く
8月31日

目が開き、耳も立ち上がって、すっかり大人のうさぎと同じ姿形になりました。 ただ小さいので、ミニチュアといったかんじで愛らしいですね。コットンテールの 目が開くのは、生後九日。日に日にものすごいスピードで大きくなって いくのでビックリ。やっぱり野生だと早くひとり立ちしないと親も大変な ものだから、うまくできていると感心しきり。

目が開きました
目が開きました

小枝のマーキングが動いてないので、親はもう巣に来ないということがわかります。でも目が開いた時点でひとり立ちだということなので、もう母乳がなくても大丈夫。 子ウサギ達はまだ巣で眠っていることが多く、、時々外に出てうろうろして いる子がいます。もう少しすると自分で草など食べ始めるそうですが、本格的に 巣立ちするのは、まだまだ。それまで、うちの庭で子ウサギの様子を見守ることにしましょう。

パパTABI
9月2日

まだ巣の中が安全
まだ巣の中が安全

子ウサギたちは まだ遠くには行かないが、もう母乳をもらえないので自分達で食べ物を 探している様子。うちの庭には、柔らかい芝やクローバーなどがたくさん あるから、食べ物には事欠かないでしょう。巣の中にいるウサギと外にいるのと点検すると、一匹足りない! まだ小さいのでフェンスを越えて外に出るとは考えられないので、その子は 残念ながら野生動物の餌食になった可能性が。この辺は、夜はアライグマ とかスカンクが出没するから、小さい小さい子ウサギは彼らの餌にちょうどいいのです。 かわいそうだけど、野生というものはそういうもの。 第一、ウサギはすごい勢いで繁殖するので、全部生き残ったら大変です。

TABIはそんな子ウサギたちを見守るのが自分の役目と心得ているようで、 庭で一日中ウサギを探しまわっています。ウサギも、とくに逃げるでもなく、そばに いてじっとしています。

TABIと子ウサギ
TABIと子ウサギ

よく巣を見ると改造してあります。自分達が大きくなって手狭に なったので、より深く穴を掘り四方を広げて住みやすくなっていました。まだ生まれて十日ほどなのに、たいしたものです。

ウサギ保育園
9月3日

もう赤ちゃんじゃないよ!
もう赤ちゃんじゃないよ!

子ウサギはまたしても大きくなり、動きも敏捷に。 巣を出て排水溝に落ちそうになる子がでてきたので、つかまえて巣にもどそう としたけど、これが大変。体が大きくなったばかりでなく、今ではキーキーと大声で泣き、つかまえるそばから逃げ出すのです。 今日は夫婦と犬、それにお隣の老婦人まで協力して子ウサギ探しにおわれる ことに。無事に三匹は巣にもどすことに成功しましたが、四匹目はフェンス の金網をくぐって逃げてしまいました。暗くなると、雨が降り始めました。逃げた子は、一人で巣にもどれたでしょうか。

巣立ち
9月5日

翌日の朝確認すると、逃げて迷子になっていた四匹目はちゃんと巣に戻り、 兄弟達と体を寄せ合って眠っていました。あんなに小さいのに、 帰り道を忘れないのです。

日曜日の朝夫が 見たところ、巣は空っぽなだけでなく、枯れ草と柔らかい親ウサギの毛で 作られたフカフカ布団もバラバラ。お隣の老婦人によると「二匹くらいが一緒に裏のほうにいた」そうなので、みんな巣立っていったのでしょう。

これまで子ウサギを傷つけては大変と、芝刈りを控えていたけど、巣立っていったことだし芝もボウボウなので夫が重い腰を上げて芝刈りをしました。 久しぶりに綺麗に刈られた芝を見ると満足。でももう子ウサギ達の かわいい姿が見られないと思うと、ちょっと寂しい。TABIも、ウサギのニオイをたどって庭の隅々を懸命にかぎまわっています。

みんな、元気でね。うちの花壇の花を食うなよ!

さよなら、子ウサギ
さよなら、子ウサギ

(2010年9月25日)

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