HIGGINS (BENJI)
〜捨て犬から大スターへ〜

benji
 

paw4.gif (869 bytes)Petticoat Junctionの子犬

世界中で最も愛されたミックス犬といえば、映画「ベンジー」の主人公だ。彼を演じたのは、テリア系ミックスのHIGGINS。飼い主兼トレーナーのFrank Innが一番かわいがった犬である。

1960年、Innはカリフォルニア州バーバンク動物収容所からの電話を受ける。
「良い犬がいるから見に来ないか?」
行ってみると、一頭の雑種の子犬。兄弟犬はもらわれていったのに、この子だけなぜか残ってしまったという。このままでは、殺処分はまぬがれまい。そう察したInnは、この子を引き取ることにする。

この子犬は賢く、何でもよく覚えた。Innは、テレビドラマ "Our Man Higgins" の主人公にちなんで犬をHIGGINSと名づけた。 当時Innはハリウッドの売れっ子動物トレーナーで、人気番組 "The Beverly Hillbillies" の動物担当として多忙な日々を過ごしていた。ひょんなことからHIGGINSはこの番組のプロデューサーPaul Henningの目にとまり、彼の新番組 "Petticoat Junction" に出演することに。それから約7年間、HIGGINSはこの長寿番組のレギュラーとしてお茶の間の人気を集めることとなる。

ドラマが終了し、HIGGINSも犬俳優を引退した。だが数年後、映画監督Joe CampがInnに新しい映画の構想を持ち込んでくる。誘拐された子供を野良犬が救うという家族向け映画に、「HIGGINSをどうか?」というのである。

そして1974年にリリースされた「ベンジー」は、子供だけでなく大人にも絶大な人気を得て、「ジョーズ」や「タワーリングインフェルノ」に次ぐ、その年の興行売り上げ第三位を記録する大ヒット作となる。さらに、アカデミー賞候補にもノミネートされた。

ここで驚くのは、この映画の撮影時、彼は13歳!小型犬は年をとるのが遅いとはいえ、13歳といえばシニアの仲間入りをしてもおかしくはない。この年で、彼は忙しい撮影のスケジュールを立派にこなしたのである。そしてまた、映画の中で彼は走る!走る!実際にはリハーサルやカットされた部分があるから、のべにするとものすごい距離を走ったことだろう。すごいスタミナだ。

「ベンジー」が他の犬映画と異なるのは、話が犬の視点から語られる点である。だが「人間の言葉をしゃべる犬」は出てこないし、犬の気持ちを代弁するナレーションもない。犬の瞳が、こんなにも豊かな感情表現を見せることを、映画を観る側に気づかせてくれる。

HIGGINSの名演技は、Los Angeles Timesをして「人間の俳優なんか使わずに、彼だけで映画を作るべきだ」と言わしめた。HIGGINSは犬俳優として数多くの賞を受賞し、「ラッシー」に続いて動物俳優殿堂入りを果たした。その後も「ベンジー」の続編的映画やテレビドラマがいくつも製作され、HIGGINSは1978年の「ベンジーのクリスマス」を最後に引退し、のちに老衰でこの世を去った。

その後はHIGGINSの娘BENJEANがベンジー役に起用され、ベンジー映画やドラマが何篇も製作された。だから世代によって、子供のころに観たベンジー映画はどれかと聞くと、バラバラな答えが返ってくる。しかし、 ベンジーは昔も今も変わらず子供から大人まで愛され続けている。

2004年、Joe Camp監督はBenji Returns - Rags to Richesを完成。この映画に出てくる犬俳優も、監督がアメリカ中の動物収容施設を探して見つけた「ベンジーのそっくりさんミックス犬」である。たくさんの候補の中から最終的に三頭に絞り、三頭とも監督が愛犬として引き取った。そのうち二頭がトレーニングののち映画に出演した。この子たちの推定年齢は3〜4歳ということだが、放浪中に保護されたということ以外、どんな過去があったのかは誰にもわからない。一つだけ確かなことは、彼らもHIGGINSと同じく不用犬から映画スターとなり、今は幸せに暮らしているということだ。

paw4.gif (869 bytes)HIGGINSとFrank Inn

HIGGINSの残した最も大きな「ベンジー効果」は、犬の里親ブームを巻き起こしたことだろう。ちっぽけな雑種の捨て犬が、世界的大スターに。収容所では、死刑執行まであと一歩だったところを、首の皮一枚でInnに救われた。処分されてしまっていたら、映画「ベンジー」の成功はなかったかもしれない。捨て犬だって、雑種だって、限りない可能性を秘めている。そして、どの子もかけがえのない命なのだ。 「ベンジー」第一作のあと、アメリカ全土で百万件以上の犬が収容所から新しい飼い主のもとへ引き取られたという。

Innは、生涯を通じて動物の保護活動に貢献した。HIGGINSだけでなく、彼の使った犬俳優の多くが動物収容所出身だそうだ。また、彼はハリウッドでの仕事を通じて多くの後輩トレーナーを育てた。ディズニー映画「ベイブ」に主演した子豚のトレーニングを担当したKarl Lewis Millerも、彼の弟子である。

Innは、HIGGINSを失った悲しみから完全に立ち直ることはなかったという。彼は2002年に86歳で亡くなり、亡骸はHIGGINSの遺骨とともに埋葬された。

ちなみにBENJIは、ベンジャミン(聖書の創世記に出てくるヤコブの末っ子)の愛称である。

参考:
Pupculture by Leslie C. Smith, Dogs In Canada March 2004
The Story of Higgins
Benji Returns オフィシャルサイト

(2005年2月15日)

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