抗体価検査とは

 

  1. 検査の内容
  2. 問題点
  3. 私たちの結論
  4. TABIの検査結果
  5. 変動する数値
  6. 何に使うのか?
paw4.gif (869 bytes)検査の内容

抗体価検査(antibody titer test)は、ある特定の病原体に感染したことがあるかどうかを調べる検査である。

感染すると、体の中でいろいろな防衛反応が起こる。病原体(抗原)に対して、特異的に反応する物質(抗体)が産出される。だから血液を調べて抗体価が基準値より高ければ、その病原体に感染したことがあり、免疫があるとされる(絶対にその病気にならないと保証するものではない)。

これは人間もごく一般的に行う検査である。妊婦の風疹抗体価検査などだ。犬の場合、検査の流れは以下のようなものである。

獣医のもとで犬の血液を採取し、宅配で専門の研究所へ送る。その際、血液と一緒に検査申込書と検査料を小切手またはマネーオーダーで送る。
現在この検査を行っているのは、私の知る限りでは、

である。

検査の料金は研究所により異なるが、一病原体につきいくら、というように定められている。例えば、OVCではパルボウイルス$15、ジステンパー$15(カナダドル)、 Hemopet では狂犬病$61(USドル)、パルボ及びジステンパー$28(USドル)である。(2002年9月現在)
この他に、手数料と宅配料金がかかる。

検査結果は数週間で送られてくる。検査の結果、抗体価が基準値より高ければ、その病原体に対し免疫があると言われる(絶対にその病気にならないと保証するものではない)。つまり、毎年のブースター(ワクチン接種)をする必要がない。

 

paw4.gif (869 bytes)問題点

検査の方が予防注射よりはるかに高くつく

抗体価検査の話を知人にすると、「ああ、予防注射は高いもんね」という反応を受けることが多い。獣医代をケチるために、注射をしないで検査で済ましている、と思っているらしい。これは全く逆で、ワクチン接種の方がずっと安上がりだ。注射なら混合4種(ジステンパー、パルボ、アデノウィルス2、パラインフルエンザ)と狂犬病を合わせても$100(カナダドル)かからない。混合だけなら$40くらいだ。

しかし、抗体価検査は検査料だけでも注射の料金を超えてしまう。獣医のもとで血液を採取してもらうのに料金を払い、さらに研究所での検査費用がかかる。その上、手数料と宅配料がかかる。血液の変質を防ぐため、オーバーナイトと呼ばれる最も速い便で送らなければならないが、これがべらぼうに高く検査料をしのぐ。

必ずしも抗体価検査が予防注射に替わるものとして認められているわけではない

ホリスティック獣医の多いイギリス、アメリカやカナダでは、一般に知られる検査である。セラピードッグなどはかつて業務上、予防注射は必須としていたが、今では抗体価検査の結果が良好ならばOKとする団体が ある。

しかし日本などでは、抗体価検査を快く引き受けてくれる獣医だっているかどうかわからない。

さらに、狂犬病抗体価検査の結果証明は、カナダから国境を越えてアメリカへ行く場合認められない。犬の狂犬病予防証明書の提出が求められる。抗体価検査の証明では、現在のところ、入国できない。 (現在は抗体価検査結果証明でもOKなようで、実際に私たちはカナダからアメリカへ引越しした際や、チャンピオンシップ出場のためカナダに入国しさらにアメリカへ再入国した際に、全く問題なく国境を通過できた。200512月追記)

検査の数値が必ずしも病気に対する免疫力を示すとは限らない

例えば、抗体価の数値がひじょうに低かったとする。これは、過去に打ったワクチンが全く効かなかったということか?このままでは、犬がウィルスに感染したら発病してしまうのか?やはりワクチンを再度打たないといけないのか?

実際にはそうとは限らない。なぜなら、病原体の侵入にあった時にまず反応するのは抗体ではなく、俗に「記憶細胞」と呼ばれるものだからである。

これは特異なリンパ球で、一度体に入った病原体は全て記憶している。そして、後日同じ病原体が侵入した場合、警告を発して免疫反応を起こさせる。それにより抗体が作られ、病原体をやっつけるのである。こうした働きがあるため、例えば子犬の時にパルボにかかった犬が成犬になってパルボに感染しても、発病することはないといわれる。

つまり、検査の数値が低くても、免疫力が全くないとは限らない。犬は再度のワクチン接種をせずに健康で長生きできる可能性がある、ということである。それなのに、検査の数値だけから判断して毎年のワクチンを続けた場合、自己免疫疾患(リンパ球が自分の体の細胞を敵とみなして攻撃し組織障害を起す)を引き起こすことがある。

このことから、ワクチン接種反対派の中には「抗体検査は無駄だ」とする人々がいる。検査などせず、獣医に対しては「ワクチン接種は断じてさせません」と強硬な態度をとればよい、と主張する人もいる。

paw4.gif (869 bytes)私たちの結論

いろいろと面倒な検査ではあるが、なぜ予防注射よりこちらを選ぶのか?

それは、ワクチンの危険性を憂慮するからである。ブースターの必要性と有効性を疑問視するからである。愛犬には伝染病で死んで欲しくないのはやまやまだが、それ以上にワクチンによるダメージでつらい一生をおくって欲しくない。実際にTABIは、子犬の時にした狂犬病ワクチンに反応をおこしてつらい目にあっている。あの時は幸いにも切りぬけたし後遺症も(今のところ)ないが、次回はそううまくいくとは限らない。

だいたいワクチンだって、接種したから絶対にその病気にかからないと保証はできないのだ。それなら抗体価検査をして免疫力の目安にし、不必要なワクチン接種を避けたいと思った。

これが、私たち夫婦が出した結論である。だが、これを読んでいるあなたに「おたくもそうしなさい」と強制するつもりは全くない。ワクチンをとるか抗体価検査をとるか、あくまで飼い主のあなたが考え結論を出すべきことだ。

なお、うちの州(カナダ、ノヴァスコシア州)では犬の予防接種は、狂犬病も含め飼い主の任意である。法律も獣医も、「接種しろ」と強要することはできない。

paw4.gif (869 bytes)TABIの検査結果

TABIの初めての抗体価検査は、2002年9月5日に行った。本来なら彼の毎年のワクチン接種の時期は、早春である。秋まで待ったのは次のような理由だ。

夏の間、飼い主は犬を連れてビーチや山など出かけることが多い。この時に犬はよその犬と接する機会が頻繁となる。よその犬の中には、ワクチンを接種したばかりの子が多く、そうした子は唾液・尿・糞などの形で周囲の環境に ウィルスを排出する。遊んでいるうちに、犬はそうした撒き散らされたウィルスに自然感染し、それに対する抗体ができる。従って、秋は犬の抗体価が最も高く出るという。

数値が基準値よりずっと高いからといって「バンザイ!これで一生安心」と単純に喜べるわけではないが、上記のことが本当ならどれだけ高い数値が出るのか、個人的に興味があったのである。

検査は、いつもの獣医でなく、ホリスティック獣医の Dr. Bishop のもとで行った。彼女のクリニックでは抗体価検査を頻繁に取り扱っており、血液を研究所へ送るのもやってくれると聞いたからである。犬飼い仲間うちでも Dr. Bishop はとても評判が高い獣医だ。

費用は、チェックアップ$40、採血$7.50、ジステンパーとパルボの検査料$45、それに税金を合わせて合計$106.38であった。これは、今まで調べた中で最も安い。

ここでは、血液をアメリカのミシガン州立大学 Animal Health Diagnositic Laboratory へ送り検査を依頼している。狂犬病の検査は今のところ扱ってないとのことだったが、TABIは子犬の時に3年有効ワクチンをしているので、今回はどちらにせよする必要はなかった。

なぜパルボとジステンパーだけなのか?
獣医によると、犬の感染症のなかでもこの二つは要注意だからだ。ワクチン接種も、この二つと狂犬病は別として、他のはそれほど心配いらないし伝染病がブレークしている地域以外ではする必要がないそうだ。例えば、犬コロナウィルス。まれに子犬に下痢をおこさせるが、合併症でもおきない限り2、3日で自然に治ってしまうし、成犬では感染し発病する心配はまずないという。

またレプトスピラはウィルスではなく細菌で、200種類以上あるがワクチンがあるのはそのうち2種だけ。しかも、ワクチンの効果はわずか3ヶ月くらいしかもたない。おまけにこのワクチンは犬に強いアレルギー反応を起こし、幼い子犬の免疫力を低下させることで知られる。ということで北米27の獣医大学(The Colorado State University, Texas A&M, The University of Wisconsin など)では接種を避けるよう奨励しているのだそうだ。

約1ヶ月後に検査結果が出た。詳細はこちらへ。

この数値の見方について解説しておこう。
コメントの欄に、CPV 1: 80 or higher, CDV 1: 50 or higher とある。CPV は犬パルボウィルス、CDV は犬ジステンパーのことである。

抗体価はこのように比率で表示される。これは、血液を何倍まで薄めたら抗体が消えたか、を示している。例えば血液を10倍に薄めたところで抗体が消えたとすると、抗体価は1:10となる。この右側の数字が基準値以上であれば陽性、つまりその病気に対する免疫があるといわれる。

ミシガン州立大学の研究所によると、パルボの基準値は80、ジステンパーは50である。TABIはパルボに対して2560、ジステンパーに対して1024の抗体価がある。TABIは強力な免疫があるということだ。

このように高い抗体価を出した犬は、なにもTABIだけではない。知人で飼い犬の抗体価テストをしている人がいるが、ほとんどの犬がパピーショット(子犬の時にする一連のワクチン接種)をしただけなのに毎回高い抗体価を出している。TABIもパピーショットと、その一年後の混合だけでこの数値だ。

よく毎年のワクチン接種の必要性を説く獣医が「ワクチンは1年しか有効でないから」と言うが、それが必ずしも真実ではないことがわかる。

paw4.gif (869 bytes)変動する数値

なお、抗体価の数値は今後変わっていく可能性が充分ある。

なぜ数値の上下がおこるのか?
抗体価は、次のような因子に影響を受ける。

  1. 移行抗体(母犬からゆずりうけたもの)
  2. 免疫抗体(ワクチン接種が成功して得られたもの)
  3. 感染により上昇した抗体(犬が実際に病原体に感染して数値が上がったもの)

移行抗体は、子犬が成長するにつれて減ってくる。免疫抗体は、過去のワクチン接種の回数、接種してからの経過時間、接種が成功したか失敗したか(注射をしたから免疫ができるとは限らない)により違ってくる。

感染による抗体は、犬が発病している犬に接触して感染するケースと、上記の「秋に抗体価が高い」に述べたケースである。なお、感染=発病ではない。感染しても何事もなかったかのように過ごしてしまうことはよくある。

上記の因子により、抗体価は上昇したり下降したり、プラトー状態を保ったりと様々で、一時期一回きりの抗体価が生涯持続することはないという。

獣医によっては、一度高い抗体価を出した犬は生涯にわたって免疫があると言っている。だがどうしても心配な人は、毎年、あるいは数年に一度は抗体価テストをして免疫力をチェックし、目安にしたほうが安心かもしれない。

また、抗体価が高いから絶対にその病気にかからないという保証は誰にもできない。免疫機構はそれほど単純ではないらしい。犬の年齢・健康状態・身体的/精神的ストレスの有無などにより、ウィルスに感染後に運悪く発病する可能性は、低いけれども、存在する。それはワクチンも同様で、「接種したから絶対にその病気にならない」などとは誰にも保証できない。

paw4.gif (869 bytes)何に使うのか?

抗体価検査の話を、抗体価検査の「こ」の字も聞いたことのない友人にすると決まって聞かれるのが「それが何の役に立つわけ?」である。

このページを上からずっと読んできた人には、その回答はわかるだろう。だが「読んだけどチンプンカンプン」という人のために、明記しておこう。

などである。

今後はこの検査がもっとずっと一般的になり、検査の手続きが簡略化し料金も手ごろになることを祈っている。

参考
Time Magazine January 21, 2002 "The Science of Staying Healthy"
Colorado State University's Small Animal Vaccination Protocol "Program 1701"
RABIES REVACCINATION FOR COMPANION ANIMALS: CANADIAN DATA by Nigel Gumley DVM

paw4.gif (869 bytes)おまけpaw4.gif (869 bytes)

科学は日進月歩とはよく言ったもので、この記事を書いている間に新しい情報が飛び込んできた。抗体価検査を簡単にできるキットが発売されたのである。

このキットは、Synbiotics から発売されたもので、犬パルボと犬ジステンパーの抗体価を15〜20分ほどで調べることができるという。もちろん素人では使えない製品だが、こうした製品が普及すれば、かかりつけの獣医のもとで簡単に検査することができるだろう。

(2002年12月15日)

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