コース解説

 

アジリティとは、ハンドラー(人間)のリードで犬が決められた時間内に次々に障害物をクリアしていく競技である。1980年前後に、イギリスで障害馬術競技をもとにつくられたという。体の大きさや犬種にかかわらず、どんな犬も参加して楽しむことのできるスポーツだ。足が速ければ勝つというものではなく、ハンドラーと選手のコミュニケーションがうまくとれているかどうかが得点に結びつく。それは、それぞれの障害物のおさえるべきポイントを確実にこなしていくことが、タイムの速さよりも重要視されるからである。現在、アジリティはヨーロッパからアメリカ、カナダ、その他多くの国で競技が行われている。国や競技団体によってルールは様々だが、ここではカナダ・アメリカにおけるアジリティの基本的内容を解説する。

  1. 障害物

  2. 競技会

  3. アジ用語

  4. スタンダード

  5. ジャンパース

  6. チームリレー

  7. ギャンブラー

  8. スヌーカー

paw4.gif (869 bytes)障害物

障害物には大きく分けてコンタクト障害、ジャンプ障害、トンネル、その他がある。

コンタクト障害は、犬が障害物の上を歩いて(または走って)渡るもので、両端にコンタクト・ゾーン(画像の青い部分)が設けられている。コンタクト・ゾーンに4本の足のどれかが必ずつかないと失点である。これは、高い位置から飛び降りて怪我をすることのないよう、犬の安全のために決められた規則である。 よって、大事なのは登って降りることではなく、コンタクト・ゾーンを確実に踏むことである。

dogwalkドッグウォーク。この下にトンネルが置かれることもある。


 

teeter_totterティーター・タッター。公園にあるシーソーと同じ。これを苦手とする犬は多い。一度失敗して犬が恐怖感を覚えると、回復するのに数年かかることもあるという。どこで失敗するかというと、登りはよいよいのだが支点を越えるといきなり板がガクン!と前傾する。これは、ジェットコースターで下降するようなもので、犬にとっては恐ろしい経験だ。また、ガクン!という音も恐怖を上塗りする。

このガクン!とくる地点を「ティップ・ポイント」といい、犬の体重によってその地点は異なる。大きな犬は支点を越してすぐ前傾するし、小型犬は端の方まで歩かないと板が降りない。大事なのは、犬に自分のティップ・ポイントがどこか覚えさせること、ティップ・ポイントで待つことにより前傾による急激なショックを防げるということを体験させること、そこまで来たら下りは楽勝だとわからせることである。
 

aframeAフレーム。文字通り、横から見るとアルファベットのAの形をしている。

 

ジャンプ障害は、その名の通り犬が飛び越える障害である。
ハードルとタイヤ・ジャンプがあり、ハードルは実に様々な種類がある。

doublebarjumpハードル。 スタンダード・ジャンプ、ダブル・ジャンプ、ウィング・ジャンプ、スプレッド・ジャンプ、ロング・ジャンプがあり、競技を主催する団体やクラスによって、これらを組み合わせてコースがつくられる。


 

tirejumpタイヤ・ジャンプ。サーカスのライオンのように、輪の中をくぐりぬける。 昔からあるのは自転車のタイヤのように一つの輪になっているものだが、最近では二つの半円がマグネットでつながっているタイプが出ている。これは、タイヤを走り抜けるときに犬の体がひっかかり、怪我につながることを防止するためだ。このタイプだと、犬がタイヤに激突するショックで下部の半円がはずれるので、犬が宙ぶらりんになったり、反動ではねかえったタイヤのパンチをくらった犬が地面に叩き落されること(実際によくあることだ)がない。


 

tunnelパイプ・トンネル。蛇腹になっていて、まっすぐ伸ばしたり、くの字に曲げたり、縮めて短くしたりできる。ドッグウォーク やAフレームと組み合わせて使われることもある。



 

tubeシュート。入り口(図の黄色い部分)から入り、その先についたナイロン製の袋(青い部分)をくぐって出る。

 

weaveウィーブ・ポール。12本ほどあるポールの間を、右に左にくぐりぬけていく。1本も抜かしてはならない。 エントリーの仕方は、図のように一本目と二本目の間を犬の体の左側から入る。このエントリーを間違えてはならない。



tableテーブル。犬はこの上に飛び乗り、伏せるか座って5秒間じっとしていなければならない。
 


Graphics By K-9's Rule

(2001年10月28日初出、2006年1月1日加筆)

paw4.gif (869 bytes)競技会

競技会では、ジャッジがデザインしたコースのマップにもとずき、コース・ビルダーがリング内の所定の位置にそれぞれ障害物を設置する。できあがったコースをジャッジが確認し、メジャーで実際の走行距離を計測、それにもとずいて標準コースタイムを計算する。なお、ジャッジは各競技会で常に全く新しいコースをデザインするので、同じコースが二度と使われることはない。それぞれの障害物の横には、走る順番どおりに番号をつけたコーンが置かれる。

その後、ジャッジのブリーフィングが行われる。競技者はリング内に集まり、ジャッジはコースの変更点やルールの確認、質疑応答を行う。

それから競技者は、コースを実際に歩く。この時、犬はリング内に入れない。コース・マップ上のフローと実際のリングではかなり印象が異なることがほとんどで、各障害物の距離やブランド・スポット(太陽光線が当たって見えにくくなっている箇所)などを確認し、走りの戦略を立てる必要がある。

本番では、出走順にリングに上がる。この時、ほとんどのアジリティ団体では犬はリードと首輪をはずさなければならない。これは、首輪の金具やリードが障害物にからまって事故になることを防止するためである。スタートラインを犬が越えた瞬間から、タイムが計られる。昔はストップウォッチを使っていたが、現在では電子タイマーをラインに設置し、自動計測するのが主流だ。リングサイドでは、スクライブ(記録係)がジャッジの審判をシートに記録する。スコア・テントで失点とタイムによりシートに最終結果が記録され、各競技者のランクが発表される。

paw4.gif (869 bytes)アジ用語

競技会では、ベテランたちはいろいろなアジリティ専門用語を会話にとりいれており、初心者にはなにがなんやら全く理解できないときがある。よく使われる用語を集めて解説するので、参考にしてほしい。

Q…最も良く使われる用語。Qualifyの略で、名詞・動詞として使われる。制限時間以内に失点なく完走した場合、Qualifyする、という。タイトルを目指すには、必要数のQを集めなければならない。"Did you Q? (クオリファイした?)" とか、"NQ(クオリファイなし)"のように使う。

SCTStandard Course Timeの略で、制限時間のこと。単にコースタイム、とも言う。

フォルト…失点のこと。失点には様々なものがあり、よくあるのは次のようなものである。

ミス・コンタクト…コンタクト・ゾーンを踏まないこと。

オフ・コース…順番通りに障害物を走らないこと。

バー・ダウン…ジャンプのバーを落としてしまうこと。

オーバー・タイム…SCTを越えてしまうこと。越えた分、小数点以下2ケタまでフォルトとして、他のフォルトに加算される。

フライオフ…ティーターの下部が地面につく前に、犬が飛び降りてしまうこと。

リフューザル…次の障害物の手前で犬が立ち止まったり、体をハンドラーの方向へ向けてしまうこと。完全に障害物を無視して走り越してしまうのは、ラン・バイで、同じく失点である。

クリーン・ラン…失点なしで完走すること。

リードアウト…犬をスタートライン手前で待たせ、ハンドラーはコース内の一つ(場合によっては二つ、三つ)先の障害物まで歩き、そこから犬を呼んで走ること。こうすることで、タイムを大幅にカットすることができるため、上級クラスでは頻繁に使われるテクニックである。

YPSYards Per Secondの略。犬が1秒間に何ヤード走るか、その速さのこと。団体により、またクラスの難易度により、YPSが定められている。ジャッジは実際のコースの距離を計測し、それとYPSをもとにSCTを出す。

以下、アメリカ・カナダの競技会で見られる様々なコースについて解説する。

paw4.gif (869 bytes)スタンダード

スタンダード(団体によってはレギュラーと呼ぶこともある)は、その名のとおり標準的なアジリティのコースで、どこの団体でも競技会では必ずこのコースをもうける。ジャンプ障害、三つのコンタクト障害、ウィーブ、トンネル、シュート、テーブル(団体によってはもうけない)で構成される。走る順番どおりに番号をつけたコーンが障害物の横に置かれ、制限時間内に順番どおりに正確に犬が走ると、クオリファイとなる。障害物の数とSCTは、レベルが上がるにつれて変わる。

paw4.gif (869 bytes)ジャンパース

ジャンパースは馬術競技の障害飛越と似ていて、タイヤやハードルなどの障害物を次々に飛び、スピードを競う。コンタクト障害やテーブルがないのでどんどん飛ばすことができ、従ってSCTは非常に短めに設定されている。スピード狂にはもってこいの種目だ。 上級クラスでは、コース内に様々なトラップがあり、それにひっかからずにどうハンドリングするか、ハンドラーの腕の見せ所である。

paw4.gif (869 bytes)チームリレー

チームリレーは、一つのコースを犬とそれぞれのハンドラーで構成された2チームが走り、チームワークの良さを競う。コースは前半部分と後半部分に別れ、前半を走り終えたチームはスタート・フィニッシュラインで後半チームにバトンを手渡す。両チームともフォルトなしで、両チームの総合タイムがSCT以内の場合のみクオリファイされる。一チームだけうまく走れてもダメなのだ。

コース的にはチームリレーはあまりイジワルなものは見かけないように思うが、実際には難しいゲームだと感じる。なんといっても、ハンドラーのスポーツマンシップが試される。自分たちがフォルトなしだったのにチームメイトがフォルトをとってしまった場合、彼らを笑って許せるか?もちろん逆のケースもある。そのプレッシャーに勝てるか?また、他の犬に対する攻撃性のある犬は、チームリレーそのものに参加することが難しい。バトン手渡しスペースでは、リードをとった犬同士がごく近距離で接触する。ここでいさかいが起こればゲームそのものがパーだし、血を見るような事態に発展すれば本部に報告され、永久追放の可能性もある。犬の性格と躾の入り具合が、ここでも試される。

paw4.gif (869 bytes)ギャンブラー

このゲームは、制限時間内に獲得したポイント数を競う。

オープニングシークエンスとギャンブリングシークエンスの二つのパートに分かれる。オープニングでは、ランダムに置かれた障害物を好きなように走る。ここでできるだけ多くのポイントを稼ぐことがコツ。障害物によりポイントが異なる。

ジャッジのボーナス障害は、競技の前にブリーフィングで発表される。一つの障害物であったり、二つ以上の組み合わせであったりするが、正しくこなした場合のみ得点が加算される。

ジャッジの笛で、ギャンブリングに入る。ハンドラーは、あらかじめ設定されたギャンブラー・コーナーへ移る。ここはテープで仕切られており、ハンドラーはテープの外側に位置したまま犬をハンドシグナルとコマンドだけで各障害物へ 指定の順番どおりにおくりこみ、フィニッシュラインへ。SCT以内に犬が正しく障害物をこなせば、オープニングで稼いだポイントが倍になる。

ディスタンスが確実に身についていないと、ギャンブルどころの騒ぎではなくなる。コントロール、スピードなどアジリティの全ての要素が試されるゲームである。

なおAAC競技会では、クオリファイするにはオープニング中にスターター/アドバンスで最低20点、マスターズで28点必要だ。 優勝するには、クオリファイ組(SCT以内に完走し、かつ失点ゼロ、必要得点獲得)→最多得点獲得者→完走タイムの最も速いもの、の順にふるいにかけ、最後に残ったトップ・ドッグを決める。

コースの歩き方

まずコースを歩く前に、渡されたコースデザインをよく検討し、オープニングでどう走るか大体決めておく。「好きなように走って良い」といっても、無計画に犬をあっちこっちにおくり出しては犬は混乱するし、犬にとって迷惑だ。

そしてストップウォッチを手に、自分のプランどおりにコースを実際に走って時間を計る。その時間や、実際にリング内に置かれた障害物の配置などを参考に、必要ならばプランを修正する。その際、ジャッジの笛が鳴る前にはジャンプなど簡単な障害物で終わるように計画する。そうでないと、ウォークやAフレームの登りかけで笛が鳴ってしまい、貴重なギャンブルの時間が削れてしまうからだ。

これは、実際に行われたAAC競技会のスターター・コース で、ジャッジの了解を得て掲載する。 Courtesy Carolyn Dockrill

コース内にミニ・ギャンブルが二つある。これは、オープニング中にポイントをできるだけ多く稼げるように設定されたものだ。ギャンブラーコーナーと同様にテープで仕切られており、ハンドラーはテープの外側から犬をハンドシグナルとコマンドだけで各障害物へ指定の順番どおりにおくりこむことで、ミニ・ギャンブルポイント(このコースでは、各10点と8点)を獲得できる。ディスタンスに自信がない人は、ミニ・ギャンブルに挑戦しないで普通の障害物として走ることもでき (その際テープの内側に入ってもいい)、その場合はポイントは各障害物に与えられたポイントしかもらえない。

オープニング中にメインのギャンブラーコーナーにある障害物を走っても良いが、その際はギャンブリング・シークエンスの指定の順番(この場合は、ジャンプ・トンネル・タイヤ)どおりに走ってはいけない

SCTは、オープニングに40秒、ギャンブルに20秒。さあ、あなたならどう走るだろうか。 (ちなみに、このくらいのコースならストップウォッチを持たずにコースを歩いても、充分戦略がたてられる)

こちらは、TABIとTABIパパが実際に走ったコース。緑と黄緑がオープニング、オレンジがギャンブリングの走り。55.87秒で完走、総合82点を獲得しクオリファイしている(実際には、スクライブの計算ミスにより公式記録は66点と記載された)。

paw4.gif (869 bytes)スヌーカー

これは、スタンダードコースではあきたらないアジ狂いが作りだしたと言われる(爆)、初めて走る時は目が回ってフラフラ確実のゲームである。

ビリヤードによく似たゲーム、イギリスで人気の「スヌーカー」をもとにルールができている。本家のスヌーカーのルールをごく簡単に説明すると、テーブル上には15個の赤球が三角形に置かれ、その周囲にカラーボール(黄色とか青の、赤以外の球)が置かれる。プレーヤーはまず、赤球をヒットしてポケットしなければならない。そしてカラーボール、赤球、カラー、というように、赤とカラーを交互にポケットする。赤球は1点、その他カラーは2〜7点、ポケットした球の得点を合計し、勝敗を決める。

アジリティのスヌーカーも基本的には同じ。本家と違うのは、アジの場合は対戦相手と勝敗を決めるのではなく、制限時間内にどれだけ得点できるかを競う。

アジリティのスヌーカーでは、赤球の代わりに赤い旗をつけた(あるいは赤く塗った)ハードルが三つと、2〜7の番号をつけた障害物がコース内に置かれる。オープニングシークエンスでは、赤ハードルを飛んで他の障害物、また赤ハードル、その他障害物…というように走る。 一度飛んだ赤ハードルは、二度と飛んではいけない。オープニングでは、その他障害物はどれでも好きなものを選べ、どの方向からエントリーしてもかまわない。

その後、クロージングシークエンスに入る。2〜7の障害物を順番通りに走り、フィニッシュラインへ。制限時間になると、ジャッジが笛を吹き、そこでゲーム終了となる。途中でミスをするとジャッジが笛を吹き、ゲーム終了。すみやかにフィニッシュラインへいかなければならない。犬がフィニッシュを越えるまでストップウォッチは止まらないので、笛を聞いたら犬をフィニッシュへ走らせることが大事。

赤ハードルが1点、その他は障害物につけられた番号がポイント数をあらわし、時間内にどれだけスムーズに得点数の高い障害物をこなすかがハンドラーの腕の見せ所となる。 最高で51点まで得点できる。

なおAAC競技会では、クオリファイするにはスターター/アドバンスで最低37点、マスターズで40点必要だ。 優勝するには、クオリファイ組(必要得点獲得者)→最多得点獲得者→完走タイムの最も速いもの、の順にふるいにかけ、最後に残ったトップ・ドッグを決める。

コースの歩き方

ストップウォッチを手に、まずクロージングを走ってどのくらいの時間がかかるか計る。SCT(制限時間)からそれを引くと、残った時間がオープニングを走る時間ということになる。

そして、2の番号をつけた障害物をマークし、オープニングからすみやかにクロージングに移るにはどう走れば良いか、どのカラー障害物を最後にすべきか、を検討する。赤ハードルの次にこなすカラー障害物を選ぶにあたっては、得点だけでなくその配置や自分の犬の得意・不得意を考慮に入れる。ウィーブ、ウォーク、ティーターなどが7ポイントになっていることが多いが、犬が不得意ならば無理して7ポイントを狙うべきではないだろう。ミスをすれば得点にならないし、時間の無駄となる。

当然のことながら、クオリファイを狙うか得点王を目指すかによって、コース戦略は異なる。Qするだけなら、必要な得点プラス数点を得るだけのプランをたてる。得点王に挑戦するなら、オープニングでガッポリ稼ぐよう計画する。また同点の場合はコースタイムが速い方が得点王になるので、スピードも考慮に入れる。

これは、実際に行われたAAC競技会のスターター・コース で、ジャッジの了解を得て掲載する。 Courtesy Mindy Lamont

赤ハードルが4つあるが、AAC競技会ではこのようなケースがある。その場合、余裕があるなら4つこなしても良い。なお6a6b6cだが、これは三つをこなして一つの障害物とみなす。 SCTは60秒。さあ、あなたならどう走るだろうか。(ちなみに、このくらいのコースならストップウォッチを持たずにコースを歩いても、充分戦略がたてられる)

こちらはTABIとTABIパパが実際に走ったコース。緑がオープニング、オレンジがクロージングの走り。当日は炎天下でスピードが出せず、50.35秒で完走。だが総合47点を獲得してクオリファイし、優勝している。

(2004年9月20日初出、2006年1月1日加筆)

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