各アジリティ団体概要

 

アジリティが盛んなカナダとアメリカには様々なアジリティ競技団体が存在し、それぞれルールが異なる。以下、私たちが競技している団体について簡単に解説する。詳しいルールについてはそれぞれのウェブサイトでルールブックを参照してほしい。なお、TABIは雑種なので、CKC(Canadian Kennel ClubAKCAmerican Kennel Clubなど純血登録犬のみ受け入れる団体については経験がないので省略する。

  1. AAC

  2. CPE

  3. USDAA

  4. NADAC

paw4.gif (869 bytes)AAC Agility Association of Canada

現在のところ唯一カナダに本拠を置く非営利アジリティ団体。アメリカに比べるとカナダのアジリティはまだ若く、チャンピオンシップも2001年から始まったばかりだ。しかし、すでに世界的に有名なSusan Garrettをはじめ、Kimberley Anderson Kim Collinsなど、多くの優れたハンドラーを輩出している。競技の内容は基本的にUSDAAと同じで、コースにはスタンダードの他ゲームズ各種(ギャンブラー、スヌーカー、ジャンパース、チームリレー)がある。レベルはやさしい順からスターター、アドバンス、マスターズの三段階があり、AAC(公式ウェブサイト)で競技を始めるものは全てスターターから上がっていかなければならない。それぞれ必要数のクオリファイ(全てクリーン・ランでなければならない)を獲得したのち上のレベルへ上がる。マスターズで必要数のQ(クオリファイ)を獲得すると、ATChC(アジリティ・トライアル・チャンピオン・オブ・カナダ)のタイトルを授与される。

生後18ヶ月以上の健康で攻撃性のない犬であれば、純血・雑種を問わず参加できる。競技するには、犬はAACのID番号を取得する必要がある。リング内ではリードと首輪の使用は禁止、また食べ物やクリッカーなどの訓練用具の持込も禁止で、違反者は退場となる。

ジャンプの高さは、犬の体高により6インチから26インチまで。AACの体高の測定は北米で最も厳しく、首の付け根の位置で測るため、ジャンプの高さが実際の犬の体高よりもずっと高くなってしまうことがほとんどである。ちなみにTABIも、AACで測定された体高が他の団体よりずば抜けて高い。

競技者は、レギュラー、スペシャル、ベテランの三つのクラスのいずれかに属して競技することができる。スペシャルでは、レギュラーよりも低い高さの障害物で競技することができる。よって、レギュラーの高さではあまりに犬の体に負担になりそうだ、と判断した競技者は、スペシャル・クラスで競技することを選ぶことが多い。また、過去の怪我などであまり無理な運動はしたくない競技者も、スペシャルを選ぶことが多い。ベテランは、7歳以上の犬のクラスで、ジャンプの高さが一段階低くなり、さらにSCTStandard Course Time)が長く設定されている。7歳以降にレギュラーやスペシャルからベテランに移行することもでき、また移行せずに現在のクラスのまま競技することも自由である。カナダでは、ベテランクラスで13歳、14歳の犬が走っていることは珍しくない。体高で決められたジャンプの高さ(インチ)は、以下の表のとおり(高さが二種類ある場合、競技者がどちらか選択できる)。

犬の体高 レギュラー スペシャル ベテラン
12未満 10または16
12以上16 16または22 10 6または10
16以上21未満 22または26 16 10または16
21以上 26 22 16または22

USDAAと違うのは、どのクラスで競技しても、マスターズで必要数のQを獲得すればどの犬にも平等にチャンピオンのタイトルが授与される点である。

AACは、審判が最も厳しいと言われる。例えば、よくシェルティがやるハンドラーの前方でくるくる旋回する動作もRefusalの5失点だし(アドバンスとマスターズ・クラスのみ)、ティーターのフライオフはたとえ微妙な線であっても10失点である。コンタクト・ミスは今は下りだけだが、以前は上りも審判していた。 ちなみにコンタクトの長さは、Aフレームは42インチ、ドッグウォークとティーターは36インチである。

また、Language Faultというのがあり、ハンドラーが走りながらうっかり口に出してしまう行儀の悪い言葉、日本語で言えば「ヤバイ!」「ちくしょー」などの言葉をジャッジが耳にしたら一言につき5失点である(カナダのチャンピオンシップのジャッジはみなバイリンガルなので、英語でも仏語でもわかってしまう)。犬に対して「お前、バカ!」などと言おうものなら退場もありえる。カナダのアジリティは、紳士淑女のスポーツなのだ。ということで、マスターズでQするのは至難の業、超完璧な走りでなければならない。

paw4.gif (869 bytes)CPE Canine Performance Events

より安全に、楽しく走ることを最優先にアメリカ・ミシガン州で結成されたCPE(公式ウェブサイト)。健康で訓練の入った15ヶ月以上の犬であれば、純血・雑種を問わず競技に参加できる。しかし、狼および狼犬は参加できない。 子供や体に障害のあるハンドラーも参加できる。競技するには、犬はCPEのID番号を取得する必要がある。コースには、スタンダードとゲームズ各種目(カラーズ、ワイルドカード、ジャックポット、スヌーカー、フルハウス、ジャンパース)があり、レベル1からレベル5まである。ここの特徴はGrandfathering(既得権の適用)が認められていることで、他の団体ですでにタイトルを取得した犬は、レベル2〜4に編入できる。もちろん、下から地道に上がっていくのも自由だ。それぞれ必要数のクオリファイを獲得したのち上のレベルへ上がる。レベル5で必要数のQ(クオリファイ)を獲得すると、CATChC(アジリティ・トライアル・チャンピオン)のタイトルを授与される。

ジャンプの高さは、犬の体高により4インチから24インチまで。競技者は、レギュラー、ベテラン、スペシャリストの三つのクラスのいずれかに属して競技することができる。ベテランとスペシャリストでは、レギュラーよりも低い高さの障害物で競技することができる。CPEの体高の測定は肩の一番低いところを測るので、犬が実際の体高より高いジャンプを飛ぶことはない。コースも、AKCに見られる首の骨が折れそうなタイトなターンは絶対になく、流れのスムーズなオープンなコースで、SCTも余裕のある設定である。従って犬の体への負担が少なく、ここでも1 0歳以上の高齢犬が現役で参加している。ちなみにコンタクトの長さは、Aフレーム、ドッグウォーク、ティーターともに42インチである。

犬の体高 レギュラー ベテラン スペシャリスト
12以下
12から16 12
16から20 16 12
20から24 20 16 12
24以上 24 20 16

この競技会では、まだ不慣れな犬やハンドラーはFEO(For Exhibition Only)として走ることができる。ちょっと本番の雰囲気を試すだけ、という練習走で、もちろんQはできないしリボンも出ないが、初めて競技に出る人にはいい経験だろう。Refusalの失点がないのも特徴だ。他の団体の上級クラスでRefusalで泣いたチームにとっては、まさに「ありがたや〜」である。また、レベルによっていくらかのフォルトが許容範囲となっており、フォルトがあってもQすることが可能だ。実際に、AACで3年間競技をして一度もQした経験のない犬が、CPEで初めてQのリボンをもらってハンドラーが思わず涙を流したのを目撃したことがある。

こういうルールがあるため、スポ根系ハンドラーからは「ミッキーマウス競技会」などと陰口をたたかれている。だけど、アジリティはなにもスポ根ハンドラーと超速ボーダーコリーやシェルティのためだけにあるのではない。大型から小型まで参加できる全犬種スポーツだし、もともとは犬とハンドラーが楽しく遊ぶためのゲームだ。ゆるやかなルールの競技会があってもいいではないか。よそに比べるとここは、いつもハンドラーも犬もリラックスしていて、夏はBBQを楽しみながらだったり、犬と楽しむ週末、といった雰囲気だ。それに、レベル1、2は確かにやさしいかなと思うが、レベル4から上のコースはよその団体でチャンピオン・タイトルをとった犬でさえ簡単にはQできない。ま、逆に言うとスポ根系ハンドラーがここの競技会に来ないおかげで、CPEの競技会はいつも和気あいあいと楽しいムードに満ちていると言える。 フレンドリーな犬が多く、競技の合間には犬同士で一緒に遊んでいる。

また、ここはアジリティだけでなく、いずれラリーなど他のドッグ・スポーツ競技会も主催する予定だそうだ。楽しみなことである。

paw4.gif (869 bytes)USDAA United States Dog Agility Association

「アメリカ中の強豪が集まる、最も競争の激しい競技会」と評されるUSDAA(公式ウェブサイト)。でもカナダのAACでさんざん叩かれてきた(爆)私たちにとっては「べつに…」という印象だ。だけど、まあ、1986年からやってるここは老舗で、アメリカだけでなくメキシコや日本などでも競技会が行われているらしく、最も大きなアジリティ団体であることは確かだろう。ここの競技会は一日の出走数がべらぼうに多く、テレビや雑誌でおなじみのカリスマハンドラーがたくさん走っているのも特徴だ。プロのカメラマンによる写真撮影や、メディアの取材もよく見かける。USDAAは営利団体であり、他の団体では無料で提供される各犬のトライアル記録なども、ここでは年間何十ドルかの料金がかかる。

生後18ヶ月以上の健康で攻撃性のない犬であれば、純血・雑種を問わず参加できる。競技するには、犬はUSDAAのID番号を取得する必要がある。ここはBritish Agility Clubのルールをもとにできた国際標準ルールを継承している。リング内ではリードと首輪の使用は禁止、また食べ物やクリッカーなどの訓練用具の持込も禁止で、違反者は退場となる。

競技の内容は基本的にAACと同じだが、ここでは競技者はチャンピオンシップ・クラスとパフォーマンス・クラスのどちらかに属して競技する。チャンピオンシップ・クラスはAACのレギュラー・クラスにあたり、犬の体高により定められたジャンプの高さで競技する。コースにはスタンダードの他ゲームズ各種(ギャンブラー、スヌーカー、ジャンパース、チームリレー)がある。レベルはやさしい順からスターター、アドバンス、マスターズの三段階があり、USDAAで競技を始めるものは全てスターターから上がっていかなければならない。それぞれ必要数のクオリファイ(全てクリーン・ランでなければならない)を獲得したのち上のレベルへ上がる。マスターズで必要数のQ(クオリファイ)を獲得すると、ADCH(アジリティ・ドッグ・チャンピオン)のタイトルを授与される。

パフォーマンス・クラスはAACのスペシャルにあたり、チャンピオンシップ・クラスより高さの低い障害物で競技する。スタンダードの他ゲームズ各種(ギャンブラー、スヌーカー、ジャンパース)があり、チームリレーはない。レベルはやさしい順からレベルT、U、Vの三段階があり、必要数のQを獲得することによりムーブアップするところは同じだが、このクラスでは最高レベルに上り詰めてもチャンピオンのタイトルは授与されない。APDAccomplished Performance Dog)、つまり「ごくろうさまでした賞」みたいなものしかくれないのだ。 ジャンプもAフレームも低いのだからチャンピオンのタイトルはあげられない、ということなのだろうか。低い障害物を選ぶのはなにも楽をしたいからではなく、犬の体を思ってのことだ。愛犬に健康で長生きしてもらいたい、と願うのは普通のペット犬の飼い主に共通する気持ちであり、タイトルで差別するのはいかがなものかと思う。

ジャンプの高さは、犬の体高により8インチから26インチまで。 ちなみにコンタクトの長さは、Aフレームは42インチ、ドッグウォークとティーターは36インチである。

犬の体高 チャンピオンシップ パフォーマンス
12以下 12
16以下 16 12
21以下 22 16
21以上 26 22

カナダのAACに比べると、USDAAで高齢の犬が競技しているのを見るのはまれである。高齢どころか、6歳や7歳の、最も体力的・精神的に最高潮と思われる中型犬もここでは「引退適齢」と考えられているようで、驚きである。 それにここの競技会では、他の犬に対する攻撃性が強い犬をよく見かける。CPEのように「犬同士で仲良く遊ぶ」なんてまず考えられず、ハンドラー同士もお互いの犬が接触しないよう緊張している。 犬の性格(家庭犬として一緒に暮らしやすいかどうか)よりも、競技犬としての能力を重視して犬選びをし、偏った訓練の仕方を続けている結果だろうか。個人的には、居心地の良くない競技会である。

paw4.gif (869 bytes)NADAC North American Dog Agility Council

ルールがコロコロ変わるため、「女ごころとNADAC」と陰口をたたかれているこの 非営利団体は、1993年につくられた(公式ウェブサイト)。私たちもここで競技を始めてから一ヶ月足らずでルールがガバチョと変わったため、あたふたしてしまった経験がある。そのため、「もお〜、ついていけない!」と、ここで競技するのを止めてしまう人々があとを絶たない。ここのプレジデントはとても面倒見がよく、メールでの個人的な質問にも丁寧に答えてくれるし、トネラーやウィーバーなど他にはないおもしろいゲームがあるのに、残念なことだ。

生後18ヶ月以上の健康で攻撃性のない犬であれば、純血・雑種を問わず参加できる。競技するには、犬はNADACのID番号を取得する必要がある。

レベルはやさしい順からノーヴィス、オープン、エリートの三段階があり、ここで競技を始めるものは全てノーヴィスから上がっていかなければならない。それぞれ必要数のクオリファイを獲得したのち上のレベルへ上がることができるが、同じレベルにとどまることも可能で、ハンドラーの選択しだいだ。エリートで必要数のQ(クオリファイ)を獲得すると、NATCHのタイトルを授与される。その他ルールについては、どうせここで説明したところでまたすぐ変更になるだろうし(爆)、詳しいことは公式サイトにあるルールブックを参照してほしい。

「スピードのNADAC」と呼ばれるが、ここのコースはテーブル障害がなく、とてもオープンで流れの良いスピーディーな展開が特徴である。他の競技会におけるテーブルで5秒待ち、というのは全く無駄もいいところで、せっかくのスピードを殺してしまう。アウトドアの競技会では雨など天候が悪いとテーブル表面がすべりやすく、勢いですべり落ちてしまう犬もあり、こんなくだらない障害物のためにQを逃したチームはこの世にごまんといるのだ。テーブルを排除しただけでも、画期的だと思う。 ちなみにコンタクトの長さは、Aフレーム、ドッグウォーク、ティーターともに42インチである。

またここ独特のルールとして、リング内におけるトレーニングが許されている。例えば、リードアウトで犬が勝手に動いてしまった場合、ハンドラーは犬をスタートラインにもどし、トレーニング・ランとしてコースを走ることができる。この時ジャッジは、片手で首を切るサインをして、これがトレーニング・ランであることをスクライブに告げる。当然、その後クリーンであってもQはできない。わざわざ高いお金を払って本番でトレーニングしなくとも、うちへ帰ってから練習すればいいじゃないか、と思うのは私だけだろうか。NADACの競技会では、意外と多くのハンドラーがこのトレーニング・ランを選んでいる。

ここも、Refusalの失点がない。従って、AACであればとっくの昔にNQになってたようなケースでも、みんな楽々Qしている。だから私たちは、NADACで走るのが好きだ(笑)。

(2006年1月1日)

ところでNADACは、タイトルや賞トロフィーなどを犬宛てに送ってくれる。実際には本犬はタイトルなんか気にしないし、もらって喜ぶのは人間のほうなのだが、ちゃんと犬の顔を立てているところがかわいいと思う。いつも郵便屋さんから受け取るときに思わず笑ってしまうのは、うちだけだろうか。(もちろん、住所は「XX様方」と飼い主の宛名が入っている)


こんなかんじ(笑)

(2006年9月11日追記)

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